療育パワーアップ講座

相談を受ける時の5つの基本姿勢-支援者自身の燃え尽き症候群も防ぐ

支援の仕事をしていると誰かから「相談」を受ける機会は毎日のようにありますね。上手く相談に乗れれば相手の喜ぶ顔を見られて嬉しい。相談者の役に立てて気持ちよく1日を終えることができます。

でも,そうそういつも上手く相談に乗れるばかりじゃないですよね。時には相談者が主旨から外れたり,話が噛み合わなかったり。相談が拗れると支援者も心身ともに疲弊し相談に乗り切れなくなってきたり,最悪の場合,支援者も燃え尽き相談者と共倒に…なんてことも。

この記事では,相談に効果的に対応できるようになる視点を5つにまとめました。
相手の感情に共感し理解するための傾聴の大切さ、状況や背景を把握する方法、問題を深く理解するコツ、沈黙をうまく活用する方法、そして自分自身を大切にする自己ケアの方法について、優しく解説しています。

これらのポイントを心に留めて実践することで、相談者へのサポートもより質が上がり、あなた自身の心の健康も守ることができます。相談を受ける側も心身の健康を保ちながら、相談スキルを磨いていきましょう。

相談を受ける基本姿勢の外せないポイント

相談を受ける際には次の5つの姿勢を意識して臨むことが大切です。

  1. 相手の感情を受け止める
  2. 相手の置かれている状況や構造を把握する
  3. 相手が「問題だと感じていること」を理解する
  4. 沈黙を恐れない
  5. 自分の感情や心を守る

どれも言葉の意味は簡単ですが,実践していくのはなかなか難しいもの。
じっくり記事を読みながら確認していきましょう。

相手の感情を受け止める

相手の感情を受け止める

相談を受けるスタートは「相手の感情を受け止めること」から始まります。
どんなに優れた解決手段を与えられても,人は感情が動かなければ行動に移すことができないからです。
感情が混乱した状態では正確な状況把握や自分の抱えてる問題と向き合うことはできません。
感情を受け止める聴き方は,全ての基本となる「傾聴」です。

「傾聴」とは,耳だけでなく心も傾けて相手に寄り添って話を聴く姿勢のことです。
相談する動機には解決策を求めている場合もあれば,単に「気持ちを知ってほしい」「共感してほしい」という場合もあるでしょう。その際は傾聴をしながら,具体的なアドバイスよりも共感や理解,存在の肯定を伝える言葉が重要になります。

感情を受け止める際にポイントになってくるのは,相手の感情を自分の感情とオーバーラップさせすぎないということです。自分の過去に感じた感情と照らし合わせることは相手の感情を想像するための手助けの一つになりますが,「自分と相手は違う」存在なので過度に自分の感情を相手の感情と重ねすぎることは危険です。

相手の置かれている状況や構造を把握する

状況や構造を理解する

相手の置かれている状況や構造という「問題の前提条件」が把握できないと相手の抱えている問題を真に理解することはできません。
環境的状況人的状況社会的状況など背景要因は様々あります。

問題となっている状態の登場人物は誰なのか,その人物とはどんな関係性になるのか,過去から現在への問題の変遷はどうだったのか,などいくつかの軸を組み合わせながら状況構造を多面的に把握していくことが重要です。

相手が「問題だと感じていること」を理解する

相手が「問題だと感じていること」を理解する

ここでのポイントは相手が「問題だと感じていること」を理解するという点です。あくまで”相手が”どう感じているのかが重要であり,自分自身の問題視点や状況構造とは異なると自覚しておくことが必要です。共感は大事ですが,自分と相手の立場は違うということは忘れてはいけません。

相手が「問題だと感じること」を理解するためには相手の語りに注目する必要があります。相手が語る問題構造の中に相手の見ている世界観が映し出されます。傾聴をしながら,相手の見ている世界観を教えてもらえるよう質問を織り交ぜて,少しずつ”相手が”問題だと感じていることを理解していきましょう。

自分の観念をなくしありのままの語りを捉える

相手の話をありのまま聴くためには,自分の「観念」(≒信念,思い込み,常識,当たり前,価値観)を排除しながら相手の話に耳を傾けることが重要です。
菅原裕子(「コーチングの技術」講談社現代新書)は,自分の「観念」が働いている状態を「きき耳」と表現しています。

「きき耳」は自分の「観念」に合わない話を相手がしている時に作動しやすくなります。相手が子どもや後輩,部下の時にも「きき耳」は作動しやすいです。相手を指導すべき立場であると,相手の話をありのまま聞くよりも自分の「観念」に沿った指導をしたくなってしまいがちなので注意が必要です。

沈黙を恐れない

沈黙を恐れない

相談者が沈黙している間は,相談者が何かを思い出したり思考を巡らせている時間です。

無言の時間が流れると「何か言わなきゃ」と思ってしまいがちですが,相談者の頭の中では必死に考えを発展させている瞬間かもしれません。
質問を畳み掛けたり,むやみに口を挟んだりして邪魔をしないようにしましょう。

ただ相手の話を聴くことの意味

相手自身も自分の悩みを明確に把握しているとは限りません。 むしろ自分の悩みをしっかりと把握できていないからこそ,誰かに相談して話を聞いてほしいのです。 相手の話を「傾聴」を使いながら聞いていくことで,相手は自分の悩みの整理ができてきます。

相談されたからアドバイスをしなければと思うのは,相談者の利益ではなく,相談された側の「面子を守る」という動機でしかありません。
ただ,相手に耳と心を傾けて聴いてもらえた,それだけで悩みの解決になることも少なくありません。

自分の感情や心を守る

自分の感情や心を守る

自分の感情や心を守ることも大切です。相談を受ける際,相談される側も多くのエネルギーを消費します。時には相手の強い感情によって自分の心にダメージを負う場合もあります。

来談者中心療法の提唱者ロジャーズは,カウンセラーに必要な態度として「共感的理解」をあげました。
共感的理解」においてロジャーズが重視したことは,“あたかも””自分自身であるかのように”感じることであって,相談を受ける側が相談者の感情に巻き込まれずにいるという点です。

相手への共感は大切ですが,相手と自分の心の間には「境界線」を引いておくことも重要です。

手に追いきれない相談は別の相談先へ繋ぐ

相談を受けたからと言って自分で全てを解決することはできないし,その必要もありません。使命感の強い優しい人は「頼られたからには自分がなんとかしなくては」と気負ってしまうかもしれません。しかし,自分の手に追えないような相談には別の相談先を提示するのも一つの誠実さです。別の専門家へと橋渡しをすることも支援者としての大切な役割なのです。

もしも,別の相談先を紹介する際には,相談者が「見放された」と感じないように,丁寧に次へと繋いでいくようにしましょう。

セルフケアで燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐ

燃え尽き症候群(バーンアウト)とは,「極度の身体疲労と感情の枯渇を示す」状態のことです(Maslach,C. 1976)。
「それまで意欲を持ってひとつのことに没頭していた人が、あたかも燃え尽きたかのように意欲をなくし、社会的に適応できなくなってしまう状態のこと(厚生労働省のe-ヘルスネット)」で,一般的に「張り詰めた糸がぷつんと切れたように」「電球が突然切れたように」などと表現されています。

相談を受けて心身が疲弊している場合は,自分自身の回復に努めていくことも必要となります。心身が疲弊した状態では相手の状況を客観的に見たり,心情に寄り添っていくことは難しいからです。

燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐセルフケア

相談を受ける側も心身のセルフケアを行なっていきましょう。

ストレッチや適度な運動は体をほぐすだけでなく,ストレスの緩和作用もあります。思考や感情をたくさん使うのでマインドフルネスで一度気持ちをリセットする習慣をつくるのも良いでしょう。

専門的なケアやスーパーバイズを受ける

適度なリフレッシュやセルフケアでは回復できない場合は,相談される側としても専門的なケアを受けることを考えても良いでしょう。
特に長期的な緊張状態が続く場合には相談を受ける側自身も燃え尽き症候群(バーンアウト)などのメンタルダウンに気をつけることが必要になってきます。

自分の感情や心を守るための専門的な手段の一つにはスーパーバイズがあります。職場の先輩や上長からスーパーバイズを受けられる際はうまく活用しましょう。

自己の心身の健康を保つことは,相談する側される側ともにメリットの大きなポイントです。

まとめ

この記事では相談を受ける際に大切にすべきポイントを紹介してきました。

相談を受けるポイント
  • 相手の感情を受け止める
    -傾聴が重要
    -自分の感情とオーバーラップさせすぎないこと
  • 相手の置かれている状況や構造を把握する
    -問題の前提条件を理解することが重要
    -多面的な状況把握が必要
  • 相手が「問題だと感じていること」を理解する
    -自分自身の問題視点とは異なることを自覚
    -相手の語りに注目する
  • 沈黙を恐れない
    -相談者が思考を巡らせる時間を大切にする
    -無言の時間を邪魔しない
  • 自分の感情や心を守る
    -境界線を引くことが重要
    -手に負いきれない相談は別の相談先へ繋ぐ
    -セルフケアを大切にし燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐ
    -相談を受ける側も心身の健康を保つことが重要

支援の仕事をしていると子どもや保護者,また同僚からなど相談を受ける機会は多いでしょう。相談を受けると「相手のためになんとかしてあげなくちゃ」と気負ってしまうこともあるかもしれません。

その思いは相手を支えるエネルギーになることもあれば,時として相手も自分も疲弊させてしまう原因になることもあります。
支援者が心身の健康を保っていることは相談者にとっても有益です。

この記事で紹介したポイントを頭に置きながら,相談する側も相談される側も両方が楽になれるよう実践してみてください。

Take it easy! Take care of yourself!

参考文献

Maslach, C. 1976 Burned-out. Human Behavior, 5, 16-22.
臨床心理学キーワード,有斐閣双書―KEYWORD SERIES
心理学辞典,有斐閣
コーチングの技術 ,講談社現代新書
STUDY HACKER|アドバイスのプロになる。相手の悩みをやさしく解決、たいせつな6つの心構え
リクナビNEXT|後輩の相談を受けるときに意識したい4つのコツ
厚生労働省 – e-ヘルスネット|バーンアウトシンドローム

ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
コンサル・コーチングを受ける
発達支援の困った!仕事の悩みを相談する!