発達障害の支援はなかなか効果が出ないから不安になることも多いですよね。
「本当にこの支援でいいのだろうか…」
「もっと有効な支援があるのでは?…」
「精一杯支援をしているつもりだけど,子どもはやる気になっていないみたい…」
発達支援に限らず教育は,はっきりとした数字で結果がわかるものではありません。それでも,「なんだかこの支援はうまく行っていない気がする…」と感じる時には,もしかしたら効果の出ない支援のループにハマってしまっているのかも。
この記事では「効果の出ない支援からの脱しかた」「効果的支援のため考え方」「陥りやすい支援の落とし穴」について解説していきます。
せ日,日々の発達支援の参考にしてください。
目次
発達障害支援は「原因さがし」ではなくて「対応さがし」をする
支援の効果が出ない多くの理由は,ズバリ「対応」ではなく「原因」探しに終始した支援になってしまっているからです。
問題になるような行動があるとついつい,「どうしてじっと座っていられないのだろう」「なぜ癇癪を起こしてしまうのだろう」「なんで言葉の理解がスムーズじゃないのだろう」など,「どうしてその問題が起こっているのか」という背景の”原因さがし”をしてしまいがちです。
そして”原因さがし”の多くは,「あの子はADHDだから座っていられなくてしかないよね」とか「コミュニケーションがうまくいかないのはASDだからだよね」とその子が持つ診断名の特徴で判断することになってしまいます。
支援を考える上では「原因」よりも「対応」に目をむけることが重要です。このことを発達障害支援の専門家である医師の杉山登志郎先生は次のように言っています。
結局、何がどう影響して発達に遅れが生じたのか、断定しにくいのが本当のところです。また、断定したからといって、子ども自身に良い影響があるわけでもありません。大切なのは、どう対応していくかです。過去ではなく、これからに目を向けましょう。
杉山登志郎(監修) 「子どもの発達障害と情緒障害 (健康ライブラリーイラスト版)」 pp.31
では,なぜ原因さがしの支援では効果が出ないのでしょうか。
原因さがしの支援では効果が出ない理由
原因さがしの支援では効果が出ないのは大きく分けて,次の2つの理由があります。
- そもそも発達障害の原因がはっきりしていないから
- マイナス面スタートの支援は本人も支援者もつらい
発達障害の原因ははっきりしていない
発達障害の医学的原因は完全には判明していません。
脳機能の障害を引き起こすメカニズムとして,遺伝的要因と環境的要因があると推測されています。自閉スペクトラム症の場合は関連遺伝子が幾つか見つかっていますが,様々な遺伝子が複雑に作用しているため,原因を完全に特定するには至っていません。親子研究や兄弟児・双子の研究から必ずしも遺伝するわけではないことも示唆されています。遺伝的要因と環境要因が相互に影響しあって発達障害が現れる場合もあることから偶然性に左右される部分も多くあります。
(参考:LITALICO発達ナビ|発達障害と遺伝の関係は?【専門家監修】)
このように発達障害の原因ははっきりわかっていません。医学的診断もあくまで現象として表れている状態をカテゴライズしたものにすぎません。つまり,その中には”その子の未来を明るくする情報”は含まれていないのです。
マイナス面の支援は本人も支援者もつらい
原因さがしからスタートする支援は,どうしても「その子ができない部分」にフォーカスした支援になりがちです。じっと座っていられない,言葉が乱暴だ,癇癪を起こす,集中力がないなど,そのマイナス面を埋めようとする支援は,発達障害を持つ子ども本人にとってはただでさえできないことを突きつけられているような感覚になります。当然,子どもはやる気が起きませんし反発します。できないことを見続けるので支援者も一生懸命やればやるほど疲弊していきます。
原因さがしによるマイナス面からの支援は,発達障害を持つ子本人も支援者もつらい支援になってしまうのです。
ただし,行動問題の原因を探ること全てが悪いことではありません。問題なのは,原因を探すだけで終わってしまったり,できないことを補う訓練をするなどの短絡的な支援にとどまってしまうことです。
短絡的な支援とは,例えば「読解力がないから本をたくさん読もう」といった支援内容のことです。そもそも,文字を読むことに抵抗があったり,文章を目で追う運動が苦手な子にとっては本を読むことは苦痛です。確かに,読解力をつけるためには本を読むことも必要ですが,「できないからできないことを繰り返しやる」という支援では効果がないばかりか余計に子どものやる気をつぶします。本を読むことが嫌いになり読解力は伸びなくなってしまうでしょう。
原因さがしから一歩脱却した支援が必要なのです。
対応さがしの支援とは「いいところ」を見つける支援
支援の効果を出すためには,「なぜできないのか」から「どうしたらできるのか」に支援者の視点を変えることが重要です。「どうしたらできるのか」のヒントになるのが,その子の「いいところ」を探す支援です。
星槎大学大学院教授で特別支援教育の専門家である阿部利彦先生は『「いいところ」応援計画』と称して,原因さがしから脱却した視点の支援を提唱しています。
「いいところ」応援計画とは,その子の「いいところ」を発見し,その「よさ」を生かした支援をすることです。より多くの成功体験を積み重ねさせ,自信を取り戻すことがその一つの目的です。
「いいところ」応援計画を立てるためには,まず支援側の意識を変えることが必要だと阿部先生は言っています。発達障害を持つ子の特徴を,「改善すべき課題」「直すべき問題点」として捉える発想から脱却する視点を持つことが支援者には必要なのです。
支援者の姿勢について阿部先生は次のように言っています。
支援者に求められることは,あたたかい眼差しで注意深く子どもを観察することと,子どもと向き合う場面でたえず集中力を発揮することなのです。
阿部利彦 「発達障害を持つ子の「いいところ」応援計画」 pp.59
「いいところ」とは,
- 本人の持っている能力のうちで比較的高い力
- 場面に即した適切な行動
(参考:阿部利彦 「発達障害を持つ子の「いいところ」応援計画」 pp.64)
のことです。
つまり「いいところ」とはその子の「持ち味」や「強み」のことです。「ストレングス」という言い方をする場合もあります。
「いいところ」応援計画は,「いいところ探し」「いいところ気づき」「いいところ増やし」の3ステップで行います。
- いいところ探し|支援者が子どもの「いいところ」を見つける
- いいところ気づき|子ども本人に自分の持つ「いいところ」に気づかせてあげる
- いいところ増やし|その子の持つ「いいところ」を増やしていく
「いいところ」応援計画がうまく行っているかの判断は,「その子が笑顔で取り組めているかで判断することができる」と,阿部先生はおっしゃっています。
子どもの持つ「いいところ」や強みを軸に,「どうしたらできるか」という対応を考えていくことで支援は効果を発揮するようになります。
次は,対応さがしをするために必要なポイントをみていきましょう。
対応さがしをするために必要なこと
効果のある支援のためには,支援者が子どもと向き合う姿勢が重要です。対応さがしのポイントをいくつかみていきましょう。
先入観を捨てる
子どもの持つ強みに根差した対応を考えるためには,支援者の先入観を捨てることが必要です。
「この子はADHDだから」「ASDの子はみんなこんな特徴があるから」という診断名で判断をすることは,先入観の代表的な例です。その他にも,「今までの子はこの支援でうまく行った」という支援者の経験に基づく先入観も目の前の子をフラットに見る妨げになります。
「普通は〇〇だよね」と健常児と比較して判断することも,その子が持つ特性や強みに気づきにくくさせる原因となります。
先入観はどうしても無意識に起こりうるものです。自分の持つ先入観に気づくためには,同僚との情報交換やコミュニケーションを大切にすることが重要です。自分の見方と他人の見方のずれに気づくことができれば,自分が無意識に持っている先入観を見つけることができます。外部の研修に参加して意見交換をすることも先入観に気づくためには有効です。謙虚な姿勢でいることは先入観を無意識に大きくしないためにも大切なことです。
支援者が持つ無意識の先入観をできるだけ取り除きながら,目の前の子どもに向き合っていきましょう。
観察をする
先入観を捨てたフラットな視点で子どもを観察することは,対応さがしの出発点になります。
その子が何に対して興味を持つのか,夢中に取り組んでいることはなんだろうとつぶさに観察することで,本来持っているその子の強みに気づくことができます。他の子と比較しないで,その子の中にあるエネルギーを見てあげられるとより気づくやすくなるでしょう。
観察のポイントは,目に見える行動や言葉だけじゃなく視線や表情の変化にも気を配ることです。
支援者があたたかい眼差しで根気強く子どもに向き合うことが,観察をするときの大切な点です。
単純な言葉の言い換えで終わらない
「いいところ」探しをするときは,単純な言葉の言い換えで終わらないことも重要です。
例えば,「多動・落ち着きがない」を「元気・活発」と言い換えただけでは不十分です。
その行動が適応的なものであるか,本人が熱中して行えている行動なのかどうかが対応さがしの支援には必要な情報なのです。
本人はじっと座って宿題をしたいと思っているのに,周りがザワザワしているから落ち着かなくて立ち歩いてしまう,フラフラしてしまう場合には「元気・活発」という言い換えは意味がありません。本人の本当の願い「宿題をしたい」という思いを受け止めて,対応を考えることが支援者には求められます。
その子の適応的な行動を増やすための材料が「いいところ」探しであり,効果をあげる支援のもとになるのです。
PDCAサイクルをまわす
支援方法は一度つくって終わりではありません。効果を検証しながらよりその子に合わせてカスタマイズしていくことが重要です。
支援者の先入観を捨てた姿勢からスタートし,観察,具体的な対応さがしをして効果を検証する,そしてまた新たな観察をしていく,このPDCAサイクルをまわすことが発達障害支援においても大切です。
原因さがしの支援では「同じ課題の繰り返し」になってしまうことも少なくありません。しかし,対応さがしの視点に立てば,常に「どうしたらできるのか」と考えることになるので支援の課題は刻々と変化していきます。子どもにとっても少しずつできることが増えたり,できることの無理が減ったりと変化を感じられるので自信になります。
先述の阿部先生がおっしゃっていたように,支援がうまく行っているかは「子どもが笑顔で取り組めているか」が一番の判断材料です。PDCAサイクルの検証でも主役はあくまえ子どもなのです。
まとめ|原因さがしから対応さがしの支援へ
発達障害の支援で効果を出すためには,原因さがしではなく対応さがしが大切なことを紹介してきました。
効果を出す支援のポイントは,
- 原因さがし支援から脱却する
- 対応さがし=「いいところ」探しからスタートする
- 先入観を捨てて,あたたかい眼差しで子どもを観察する
- 「いいところ」は単純な言い換えで終わらない
- PDCAをまわす
発達障害の支援は結果が見えにくいものです。その中でもいい支援の判断材料になるのは「子どもの笑顔」です。支援の主役を子どもに置きながら原因さがしの支援から対応さがしの支援へと転換していきましょう。
Take it easy! Take care of yourself!
参考文献・サイト
杉山登志郎(監修) 2009. 子どもの発達障害と情緒障害. 講談社
阿部利彦 2006. 発達障害を持つ子の「いいところ」応援計画. ぶどう社
LITALICO発達ナビ|発達障害と遺伝の関係は?【専門家監修】
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