発達支援の入門【旧:いまさら講座】

【いまさら講座】自閉症のこだわりってなに?日常的に使う「こだわり」とはどう違うの?

どうも,まっつんです。

発達障害支援にまつわる,いまさら他人には聞けない,そんな”そもそも”を解説する「いまさら講座」。 今回のテーマは「自閉症のこだわり」。

自閉症の基本症状はこの「こだわり」とともにあると言っても過言ではないくらい,自閉症の事を理解するうえでは欠かせない概念です。

でも,「こだわり」という言葉,私達も日常的に使っていますよね。 その日常的に使っている「こだわり」と自閉症の「こだわり」ではいったいどういう違いがあるのでしょうか。

また,自閉症の「こだわり」はいったいどういう理由で現れて来るのでしょうか。

それを理解するためのキーワードは「同一性の保持」です。
今回のいまさら講座は「そもそも自閉症のこだわりってなに?」をお届けします。

そもそもこだわりとは

自閉症の子と関わったことがある人は,少なからずその人の行動の中に”こだわり”を感じた事があることでしょう。 それくらい自閉症とこだわりは切っても切れない関係にあります。

自閉症のこだわりとは,物や人,状況を一定に保っておきたいという欲求を元に繰り返し同じような動作を行う状態のことです。

自閉症の療育に従事し,自閉症とこだわりについて書籍にもまとめておられる白石雅一先生によると,こだわり行動の定義は以下のようになります。

【こだわり行動】 ある特定の物や状況に著しい執着を示し,それを常に一定の状態に保っていようとする欲求に本人が駆られた結果,それが変わること,変えられることを極度に嫌うようになり,行動面において反復的な傾向があらわになること。

(白石雅一,「自閉症スペクトラムとこだわり行動への対処法」より)

そして同じ本の中でさらに自閉症こだわりの特徴として ①変えない ②やめない ③始めない という3点も指摘しています。

自閉症のこだわりの中心には,「常に同じ状況に保っておきたい」という心の作用があるのです。 その心の働きからくる行動などを総称して「同一性の保持」といいます。

自閉症のこだわりはどういうときに現れるのか

自閉症のこだわりは,単に繰り返しの動作という常同行動として見られる場合と,それ以外の場合に大きく分けられます。

それ以外の場合の一つ目は,「見通しができない」時に現れます。 例えば,スケジュールの変更を受け付けないというこだわりは,見通しが立たない状況を減らすために起きているとも考えられます。

他にも,「納得できない」時にこだわり行動が現れることがあります。 それは,物の位置を直さずには気が済まない場合など,自分で納得できる状態をつくりだそうとして行動が起こります。

いずれの場合も,その根底には状況を同じくしたいという「同一性の保持」が影響しているのです。 つまり,自閉症のこだわりとはその子の主観的な内面世界を守るための行動なのです。

自閉症の人にとってこだわりはなぜ必要なのか

では,なぜ自閉症の子はこだわり行動をするのでしょうか。 そこにはこだわり行動を必要とする自閉症の特性が影響しています。

自閉症の子は一般的に想像力に困難さを抱えている場合が多くあります。 想像力の困難さは,状況の理解や見通しを立てることを難しくしてしまいます。

そのため,できるだけ自分にとって処理しやすい様に状況を統制している行動が,自閉症のこだわり行動なのです。

はじめての場所や,はじめての状況で見通しが立たないことは,普通に生活している上でも不安が募るものですよね。 自閉症の子にとっては,日常的にそんな見通しが立たない不安な世界の中にいるのです。 だからこそ,安心を得るために同じ状況をつくっていこうとする傾向が現れてきます。

必要でなくてもこだわり行動が出てしまう場合もある

しかし,一方で安心を得るためという理由だけではなく,自閉症の子にはこだわり行動が現れる場合があります。 それは,「他に行動ルートがないから」という理由です。

他に行動ルートがない,つまりその状況ではその行動をするよりほかに手立てがない,他の行動が選択できないというパターンです。

ここには自閉症の子が持つ,行動獲得の特性が大きく影響しています。

自閉症の子では,記憶の様式がやや特殊な場合があり,記憶がそれぞれ宇宙に広がる惑星同士の様に,記憶の宙に点在している事があるのです。 その為,記憶と記憶のつながりが弱かったり,全くなかったり,必要な時に必要な記憶を呼び出せないという困難さを持っています。

一定の状況でその状況にあった行動をするためには,過去の記憶を呼び出して,状況に合わせて行動を選択していく必要性があります。 通常は状況に対して,いくつかの過去の記憶を参照できるので,行動の選択肢は複数になります。

しかし,自閉症の子の場合,この時に状況に対してつながっている過去の記憶が1つのパターンしかなかったり,それ以外の記憶とはつながりが持てていなかったりすることがあるのです。 それによって,状況に対して行動を他に選択できないという結果になってしまうことがあります。

これが,「他に行動ルートがない」ために起こる自閉症のこだわり行動です。

さらに,自閉症の子は印象的な記憶はより強く残ってしまう傾向を持っている子も多いため,最初に選択された行動がこだわりとして残ってしまい易かったり,怒られた場面や感情が強く揺さぶられた場面でした行動を何度も繰り返してしまう原因にもなっています。

こだわりによる弊害

こだわりはその子の内面世界を守るための行動であるため,こだわり行動が出来なかったり妨害されると,その子にとっては内面の世界を大きく揺さぶられることになります。

そして,自分のコントロールの効かなくなった状況はさらに不安をあおるため,パニックという形で処理できなくなった感情があふれ出してしまうのです。

さらに,こだわり行動による変更の効かなさは,しばしば他の行動や必要な行為を制限してしまいます。 ひいては,こだわり行動によって他の行動の獲得機会が失われることで,その子の発達の機会を阻害してしまう原因にもなるのです。

この変更の効かなさ,受け入れられるのもが限られているという状況は日常の生活を縛ってしまい,その子自身にとっても”枷”になってしまう事もあるのです。

一般的なこだわりと自閉症のこだわりの違いとは

一般的な”こだわり”のイメージで言うと,「店主こだわりスープの美味いラーメン!」とか「豆にこだわった贅沢なコーヒー」みたいな感じで割とポジティブな印象を受けるのではないでしょうか。 もちろん,自閉症を持つ人の中でもそのこだわり故に「その道を極める」人もいたり,高い色彩へのこだわりなどから芸術の世界で大成する人もいます。

ただ,一般的にいうこだわりが恣意的なものであるのに比べて,自閉症の人で言うこだわりはより行動支配的な側面をもつという違いがあります。

こだわりをどう扱うか

自閉症の場合のこだわりは変化しにくいのですが,変化しにくい代わりに「拡大」したり「移行」したりする場合があります。 行動の他のルートがないため,「こだわり部分」にだけエネルギーが集中してしまい,次第にその範囲を広げていくことがあるのです。

こだわり行動は他の行動を制限してしまうため,発達に影響を及ぼすことがあります。 自閉症の子のこだわり行動に対して悩んでいる保護者の方,支援者の方は少なくないと思います。

こだわり行動への完全受容は,他の刺激への脆弱性や自分を守る術を極端に狭めてしまう原因にもなります。 だから,こだわり行動に対しては適切に支援をしていくことが必要なのです。

一方,もちろん長所として伸ばせるこだわりもあります。 その子にとっての楽しみだったり,適応的に進めて行けるこだわりは対処する必要はないでしょう。

こだわり行動の扱いに関しては,極端にすべて受け入れる,すべて無くすといった極に振れることなく,環境とその子の内面とのバランスを見て折り合いをつけていきたいところです。 そして,こだわり行動の支援に関しても「こだわり行動をなくす」という視点ではなく,「受け入れられることを増やす」「許せることを増やす」という視点で進めて行きたいですね。

こちらに関して詳しくは,後日「自閉症とこだわり行動への対処法」として記事にしたいと思います。

まとめ

はじめて自閉症の子と接した人にとっては,その行動の理解が難しいことも少なくないかもしれません。 特に,こだわり行動に関しては,「きっとこんなに頻繁に同じ行動をしているという事はこれが好きなんだろうな」と思ってしまうかも。

確かに,本当に好きでやっている場合もありますが,それしか「やれない」という場合もあるのです。 それは,本人にとっても好きでもないことを繰り返しやっていて飽き飽きしていることかもしれません。

死んだ魚のような目でひたすら太鼓をたたき続けるというこだわり行動をしている子を見たら,「あぁ~もうその遊びは飽きたのね。でも他にやることがないのね」と思ってしまいます。

こだわり行動は,自閉症の子にとっては「自分の世界を守る壁」であるのと同時に「外の世界に広がっていけない壁」でもあるのです。 その両方の視点に立って,その子にとっての「こだわり行動の意味」を理解していくことは,自閉症の子の支援のスタートになると思います。

「こだわり」は日常的にも使う言葉だけに,その意味理解は曖昧になりやすい言葉です。 支援者の中にもいろいろな「こだわり」への認識をもっている人もいると思います。

ただ,何度も繰り返しになりますが,自閉症とこだわりは切っても切れない関係です。 自閉症を持つ子を理解しようと思ったらその子のこだわり行動の理解無くしては始まりません。

ぜひ,この記事が自閉症支援にかかわる皆さんの助けに少しでもなったら幸いです。
では以上,まっつんでした。

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ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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