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そもそもストレスって何?
ストレスという用語,いまはすっかり日常語になりよく聞くようになりましたね。
むしろ現代は”ストレス社会”と言われるほどその存在は私たちの生活と切っても切り離せない状態になっています。
ストレスは専門的には「外的な刺激によって生じる心理的・身体的な反応」と定義されています。
人に心理的・身体的な反応を引き起こす刺激を”ストレッサー”と言います。
ストレッサーは主に次の5つの種類に分類されます。
①科学的ストレッサー
②生物学的ストレッサー
③心理的(対人関係)ストレッサー
④社会的ストレッサー
⑤物理的ストレッサー
刺激そのものをストレッサーという言葉として認識していなくても,私たちの生活の周りにはストレスの元になる刺激が数多くあります。
例えば,夜中の騒音,排気ガスやタバコの煙,上司からの叱責や友人とのケンカなど。
他にも転勤や親しい人との死別,一方で結婚や昇進といったポジティブな出来事もストレスの元になり得ます。
ストレッサーには特別な出来事としての「ライフイベント」と日常の出来事「デイリー・ハッスルズ」があります。
これらの外的な刺激をどのように受け取るか(ストレスの認知的評価)でストレスに対する反応は変わってきます。
ストレス反応を減らすことができずに慢性的にストレスにさらされ続けると心身症などのストレス性疾患になることも。
心身症の代表的なものには,筋緊張性頭痛や胃潰瘍,気管支喘息などがあります。
コーピングとは
「コーピング」とはストレッサーによって生じた心理的・身体的な反応(ストレス反応)を減らしたり,ストレッサーを取り除いたりするための行動を指す言葉です。
自分自身の気持ちや内面に向けて対処する「情動焦点型コーピング」とストレスの元そのものに向かって対処する「問題焦点型コーピング」の2種類があります。
・情動焦点型コーピング
・問題焦点型コーピング
情動焦点型コーピングとは
「情動焦点型コーピング」で用いられる主な対処方略は「回避,静観,気晴らし」などがあります。
定期テスト前や仕事の締め切り前になると急に部屋の掃除を始めるといった人,よくいませんか?
私もテストの前日に急に机の上の整理を始めて数時間が経っていたなどよく経験していました。
これはテスト勉強や仕事への回避をすることで,焦りや不安といった情動を減らそうとするコーピングの一つです。
ストレッサーとなる”勉強”から一時的に回避することで,焦りと不安を解消する「情動焦点型コーピング」です。
問題焦点型コーピングとは
「問題焦点型コーピング」は対照的に,問題そのものの解決を図ったり,問題の原因や所在を明確にする,情報収集をするなどの合理的な方略です。
ストレッサーとなる問題自体を弱めたり取り除くことでストレスそのものを小さくするのが「問題焦点型コーピング」の特徴です。
情動焦点型と問題焦点型のそれぞれの役割
「情動焦点型コーピング」と「問題焦点型コーピング」はそのどちらかが一つだけ使われるというわけではなく,同時にまた継続的に使われることもあります。
問題が起こった直後の乱れた気持ちを「情動焦点型コーピング」で沈めた後に,実際の問題解決を図っていくといったように,2つのコーピング方略はお互いに補い合うように働きます。
一方で,問題に焦点化しすぎることで余計に焦ったり不安感がましたり,問題からの回避を続けることで問題自体が変化しない(ストレスは高い状況のまま)といったようにそれぞれのコーピングが抑制し合うこともあります。
「情動焦点型コーピング」と「問題焦点型コーピング」のどちらかが優れているというわけではなく,使うタイミングや必要な場面が異なるのです。
コーピングの具体例
コーピングの具体例についていくつかご紹介します。
株式会社ビズヒッツの調査【ストレスの解消方法ランキング-男女3,013人アンケート調査】では,ストレス解消法として
「食べる」
「映画・ドラマ・動画を見る」
「運動する」
「歌う」
「寝る」
「音楽を聴く」
「お酒を飲む」
「ゲームをする」
「買い物をする」
「本・漫画を読む」
参考:https://bizhits.co.jp/media/archives/29876
などがあげられています。
子ども(中学生)を対象としたものには谷尾らによる「中学生の日常ストレスと対処行動」の調査があります。
「信頼できる人に相談する」
「勉強や趣味に集中する」
「いろいろ考え見方や考え方を変える」
「困難に立ち向かい努力して乗り越える」
「友達の家に遊びにいく」
「部活動に熱中する」
参考:谷尾ら,愛知教育大学研究報告,51(芸術・保健体育・家政・技術科学・創作編), pp.29~35, March, 2002
など
“ストレス解消法”としてイメージしやすいものには,「情動焦点型コーピング」が多いようです。
社会人のコーピングには「食べる」「運動する」「買い物をする」のような行動的なものが多く,中学生の場合は「勉強や趣味に集中する」「いろいろ考え見方や考え方を変える」のような認知的なものが多く選択されています。
社会人では自分の意思で自由にできる時間やお金の余裕があり,飲酒や喫煙ができるなどの社会的制約も少ないので,「食べる」ことや「お酒を飲む」「買い物をする」などのすぐにできる行動が選ばれる傾向が出るのでしょう。
一方で中学生は,まだアルバイトなどをしている子も少なく,お小遣いも限られているので比較的金銭などに左右されないコーピングが選択されています。
実際のストレスを下げるには「問題焦点型コーピング」が有効ですが,社会人のストレス原因には「会社での対人関係」「お客様とのやり取り」「給与の額」「仕事の量」など自ら変化させることが難しいストレスが多いこともあり,「情動焦点型」の対応が多くなるのでしょう。
コーピングを実行する力の差
ストレス場面でどのようなコーピングを実行するかは人によって異なります。
同じようなスキルや考え方を持っていても実際のストレス場面ではさまざまな要因が絡み合ってコーピングが実行できるかどうかが左右されます。
コーピング実行に影響する要因には主に次の5つが指摘されています。
①要求に対する認知的評価
②自己効力感
③問題解決スキル
④社会的スキル
⑤ソーシャル・サポート
ストレス耐性を上げるためには?
ストレスへの対処能力=コーピングスキルを身につけていくことでストレスそのものへの耐性を高めていくことも可能です。
ストレス耐性を上げるためのポイントは,“ストレッサーをコントロールすることで感じる達成感”と“ストレッサーの見方を変える習慣を身につける”ことが重要です。
“ストレッサーをコントロールする”とは,自分にとってのストレス源を見極め,コーピングによってストレス源を減らしたりストレス状況を未然に防いだりすること,またその力が自分にあると認識することです。
ストレッサーのコントロールができると達成感を感じられ,自尊心が育ち,反対に不安は下がっていきます。
“ストレッサーのコントロールができる”という思いが自己効力感を高めてくれる訳です。
“ストレッサーの見方を変える習慣”とは,例えばサッカーの試合に負けたとしても「試合で今後の成長の種を見つけられた」「悔しい気持ちがあるがその分練習を頑張れる」などネガティブなイベンに対しても肯定できるような側面を発見していく作業のことです。
認知行動療法で用いられるような技法はストレッサーの見方の変化に役立てることができます。
療育へのヒント
ストレスの認知的評価には個人的要因と環境的要因が影響します。環境的要因の主なものは、「新奇性」「不確実性」「時間/出来事のタイミング」などです。これらが影響し、ストレス反応を引き起こします。
発達障害を持つ子どもでは、出来事の先の見通しが立ちにくい、経験が一般化しにくいなどの特徴を持つ場合が多く、日々の生活の中で起きる出来事の「不確実性」「新奇性」「タイミング」の問題はより顕著になります。発達障害を持つ子どもがより疲れやすかったり、ストレス反応を生じやすい理由の背景には、こうした特徴があります。
また、一つの考え方に固執しやすい点は、「ストレッサーの見方」を変えるのが難しく、いつまでも過去の失敗を引きずったり、一度の過ちに長期的に悩まされる原因ともなります。
発達障害を持つ子どものストレスケアを考えた時には、コーピング手段を単に増やしていくだけでなく、発達障害を持つ子どもが「なぜコーピング手段を取りにくいのか」という視点を持って支援をしていくことが必要です。
今持っているコーピング手段をうまく活用していく方法を探ることも重要な支援の一つです。発達障害に顕著に見られる特性に対応した支援で下支えをしつつ、コーピングスキルが発揮できる環境を一緒につくっていきましょう。
コーピングスキルが発揮できると次第に自己効力感が上がっていき、ストレス自体への耐性も強まっていきます。「冷静になれば対応できる」という経験は、いざという時の落ち着きの源にもなります。
また、ストレス・コーピングは逆境から立ち直る力「レジリエンス」の一つとしても機能します。人生を豊かにする力である非認知能力のひとつ「レジリエンス」の向上を考える際にも、コーピング能力は重要なピースとなります。
「レジリエンス」については別記事でも解説していますので、ぜひ合わせてそちらもお読みください!