療育のキーワード

【療育のキーワード】レジリエンス-逆境から回復するしなやかな力-

【療育のキーワード】レジリエンス-逆境から回復するしなやかな力-

【レジリエンス】
過酷な環境やストレスフルな状況,あるいはトラウマ体験といった逆境に直面した際に,そのショックから回復し,状況に適応していく力。

小塩真司:編著 「非認知能力-概念・測定と教育の可能性」 北大路書房

レジリエンスとは

子育てに関心のある方や子どもの教育に携わる方は,耳にする機会が増えたのではないでしょうか。「レジリエンス」は最近話題の非認知能力の中でも注目の能力の一つです。

私たちは日常暮らしていく中で様々な経験をしていますよね。
楽しいこともあればつらいことも。仕事でうまくいくこともあれば,ミスをして上司に怒られたり,お客さんからクレームを言われたり。

ストレスを感じるような同じ状況でもダメージの受け方は人それぞれ異なります。時には他の人ならまいってしまうような状況でも平然としている人もいるのに時々びっくりしたりします。

心理的な健康度を左右する要因にはさまざまなものがあります。ストレスのように健康を害するものもあれば,心の健康度を促進したり,ストレスなどから健康を守ったりするものです。

「レジリエンス」はそんな心の健康を守る要因の一つなのです。

発達障害の二次障害を防ぐレジリエンス

発達障害を持つ子の子育てや支援に携わる方は「二次障害」という言葉を聞いたことがあると思います。

二次障害とは発達特性などの影響を受けながら,うつや不安障害,引きこもりなどの二次的な症状が発生している状態です。

二次障害の有無は発達障害を持つ子の将来に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されています。

二次障害を予防したり,健やかな成長を促す要因はどんなものがあるでしょうか。

その一つのヒントが「レジリエンス」です。

回復薬としての「レジリエンス」

「レジリエンス」は日本語では弾力性回復力などと訳されることが多いです。

回復力や弾力性…なんとなく言葉の意味はわかるような…。
もう少し詳しく「レジリエンス」について深掘りしてみましょう。

「レジリエンス」と似た用語に「頑健性=ハーディネス」というものがあります。

「ハーディネス」とは,高いストレス状況でも健康を保てる性格の傾向のことです。例えば,自分に対するコントロール性だったり,単純なストレスへの耐性度の高さも「ハーディネス」の一つです。

「ハーディネス」の頑強さに対して,「レジリエンス」は弾力性や回復力。

RPGでたとえるとハーディネスが盾や鎧だとしたら,レジリエンスは”回復薬”や持続効果のあるバフといったところでしょうか。

「レジリエンス」はつらいことがあった時に落ち込まない力,というよりはつらい状況や逆境に立ったとしても”自らを立て直していける力”なのです。

また,「レジリエンス」のもう一つの側面として“長期的にさらされる過酷な環境における適応力”という面も持っています。

レジリエンスの具体例

たとえば,受験に失敗して寝込むほど落ち込んだ。しばらくは何も手につかなかったけど,一時的にゆっくり体を休め自分と向き合おうことで,やけにならずに新しい目標を決めて別の進路を選び取っていくことができた。

受験失敗からまた人生を立て直した,そんな時その人には「レジリエンス」が働いていたといえます。

他にも,失恋したとしても「もう恋なんてしない」なんて言わずに,また新しい出会いを求めていくことも「レジリエンス」の発揮です。

死別や災害からの立ち直り(悲嘆の作業)も一つのレジリエンスの例でしょう。

毎日続く残業やクレーム対応でストレスフルな状況でも,日々の暮らしの中でふっと落ち着ける入浴タイムを確保することや気晴らしをしてストレスを減らしていくスキルも「レジリエンス」です。

このように逆境やつらい状況に立たされてもそこから新たな道を見つけり,立て直したりする力が「レジリエンス」です。

レジリエンスに影響を与える要因

「レジリエンス」の高さにはどのような要因が影響するのでしょうか。

研究で指摘されているのは,生得的に持っているものと後天的に身につけるものの2種類の「レジリエンス」要因があります。

持って生まれた気質に由来する性格の穏やかさ楽観性社交性など,他にも統御力行動力などが生得的な要因です。

一方で,後天的に身につける要因としては,問題解決志向自己理解他者理解など学習や生活の中で培われていくものが挙げられます。

家族や友人と言った他者のサポートも逆境において立ち直る力の源となって「レジリエンス」を支える大切な要因です。

他にも,愛着の安定は「レジリエンス」の高さに大きなプラスの影響を与えることが知られています。

愛着の安定がレジリエンスに与える影響

愛着は不安感の解消をメインに子どもの感情の安定に作用します。

愛着や愛着関係の安定性については別の記事でも詳しく解説したいと思います。

愛着の安定性は子どもの感情の安定に繋がります。
不安をしずめ,楽しい気持ちや嬉しい気持ちを増やすような愛着対象との関係性は子どものポジティブな感情状態を増やすことができます。

ポジティブな感情状態でいる子は気持ち的に落ち着いているだけでなく,他にもさまざまな良い面があることが研究で明らかにされています。

ポジティブな感情状態でいる子は,課題に対して根気強さや柔軟性を示し,問題解決能力も高いことが知られています。

他にも,始めて行った場所に対する認知地図(頭の中で思い描くイメージマップ)の発達も促進するなどプラスの影響があるのです。

大人になってからもポジティブな感情状態が多い人は,仕事のパフォーマンスが高かったり,課題学習の速さ,情報への好奇心が高いこと,他者への開放性などのプラスの影響があることが研究で明らかにされています。

その影響は子ども時代だけにとどまらないのです。

愛着の安定性は子どもの不安な気持ちを和らげ,ポジティブな感情状態を増進します。

特に,感覚の過敏やストレス耐性の弱さが気になる子にとっては他者を通じて安心できることは,いろいろなことに挑戦するためのエネルギーの源になりますよね。

「レジリエンス」を考える上でも愛着の安定性は重要な要因の一つなのです。

レジリエンスを伸ばすための方法

「レジリエンス」を伸ばすための研究も盛んに行われています。

その方法は,レジリエンス・プログラムと呼ばれいくつかの内容や進め方があります。

代表的なプログラムの内容は,認知行動療法の技法を使って,ストレス状況や逆境に対しての認知(物事の捉え方や考え方)や行動の変容を促すための学びや練習をしたりストレスに対処するスキル(ストレス・コーピング)を学んだりするものです。

以上の二つは,いわゆる心理教育と呼ばれる他のプログラムでも用いることが多いものです。

一方で,レジリエンス・プログラムでは,ポジティブ感情を重視することとそれぞれが持つ資源へ注目することの2点が特徴的なポイントです。

愛着の安定性の関連でもご紹介したポジティブ感情の重視は,日々過ごす中で学んだ考え方の方法や行動(認知行動療法やストレス・コーピングで学んだようなスキルも含めて)をポジティブな感情状態の中で繰り返し広げていくことで,つらい逆境状態でも対処可能な能力を高めることができるようになる点が特徴的です。

スポーツに例えると,練習試合も否定的な気持ちで臨んだら,その練習効果は積極的に臨んだ時よりも低くなってしまいますよね。
ポジティブ感情の中で実践すればより身につく,そしてよりポジティブな感情でその練習試合や実践に臨めるといういわば“ポジティブループ”を作り出すのです。

このようにポジティブ感情を重視し,スキルを広げていく流れは「拡張-形成理論」として盛んに研究されています。

資源への注目というのは,自分の持ってる「強み」だったり,周りでサポートしてくれる友人や家族などを自覚することで,逆境状態でも自分はなんとかできる,対処できるという「対処可能感」を伸ばしていくこと取り組みです。

自分の持っている資源には,なかなか自分自身では気づかないこともありますが,そんな時は周りの人からのフィードバックなんかもうまく活用して資源に気づいていくよう進めていきます。

このように自分の中にあるスキルだけでなく,他者を介して「強み」に気付いたり,サポートしてくれる他者を頼ったりと,自分の中だけで完結しないことも「レジリエンス」を高めていく上で大切なポイントです。

療育へのヒント

放課後等デイサービスの中でも「レジリエンス」を伸ばしていくための取り組みを実際にされているところも増えてきているようです。

プログラムの内容についてはさまざまな研究で取り上げられていたりするのでぜひそちらも参照してみてください。
このブログでも別記事で療育の実践内容として解説していきたいと思います。

レジリエンス・プログラムを実践していく中で大切なのは,個々のスキルをただ伸ばすということより,スキルを得ることで自尊感情や自己効力感を持てるように働きかけていくこと,それこそが「レジリエンス」を伸ばしていく上で一番重要な部分です。

例えとても優秀なスキルを持っていたとしても,それを「自分で扱える」と思えないといざという時に力にはならないでしょう。

愛着の安定とも通じて,その根底にあるのは「あなたは逆境にも対処できるだけの素晴らしい強みや能力を持っている」というメッセージを間接的継続的に投げかけていくことにあると思います。

これは他の療育についても言える事ですが,「レジリエンス」を伸ばすための取り組みがただのスキルの学習になってしまわないように注意が必要です。

一方で,発達障害の支援では”逆境から立ち直る力”という「レジリエンス」の側面も大事ですが,”長期的にさらされる過酷な環境における適応力”という面も大切にしたいところです。

感覚過敏など特性に由来するストレスに日頃からさらされることの多い発達障害を持つ子どもたち。
日常的なストレスを緩和するスキルや息抜きなどの回復するためのコーピングや能力を高めていくことも,子どもたちの適応を伸ばしていく大切な「レジリエンス」となります。

最後に,レジリエンスが高い=落ち込みにくく粘り強く物事に取り組んでいく良い子のようなイメージに当てはめてしまうことにも注意を払う必要があります。

逆境からの立ち直りの際もその立ち直り方はひとそれぞれ違うでしょうし,その状況によっても求められるスキル,「レジリエンス」は違ってきます。

もしかしたら,とある子にとっては無理に学級の中で社交性を発揮するよりも,クラスの中でも落ち着いて一人で過ごせる力が必要な場合もあるかもしれません。

レジリエンスには個人差や質的な差異があることを知っておくが大切です。

ステレオタイプな”レジリエンスの高い子”のイメージに振り回されることなく,目の前のその子が必要としている「レジリエンス」はなんなのか一緒に考えて一緒に成長していきたいですね。

ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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