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【療育プチコラム】自己効力感~挑戦力のある子に育つために必要な事とは?~

【自己効力感】 自分が行為の主体であると確信していること,自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念,自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信が自己効力感である。

心理学辞典,有斐閣

「自己」とつくいろいろな言葉

「自己」という文字がつく言葉はいろいろあります。
自己概念,自己認識,自己意識,自己防衛…そして自己効力感。

自己効力感は,心理学の用語です。 最近は子育て本の中などでみることが増えた用語の一つではないでしょうか。

一般に広まる機会が増えたという事は,それだけ子育ての中で重要な概念なのでしょうか。 今回は

「自己効力感」についてみていきましょう。

自己効力感とは

自己効力感とは,単純に言ってしまうと「とある出来事を自分が自分の意志で成し遂げられるかどうか」という認識の事です。

例えば,プロのスポーツ選手は,自分のパフォーマンスに対して強い信念を持っていますね。 きっと結果を出せる=自己の効力を発揮できるという思いが自己効力感です。

日常的な例で言えば,算数の宿題が出たときに,「僕は自分の意志で取り組むことができる」と信じている子は,算数の宿題に取り組むという行為への自己効力感が高いと言えます。

自尊心とはちょっと違うの?

似た言葉に自尊感情という用語があります。

自己効力感と自尊感情は違うのでしょうか。 自尊感情が自己全般的なこと対する概念であるのに対して,自己効力感はある特定の分野に対する自信や成し遂げられるという信念です。

自己効力感は,信念の対象になるような行為(例えば,自分のスポーツの才能,ピアノの才能,計算能力など)に対する領域特異的な認識なのです。

自己効力感が高まることのメリット

上の例の様に,自己効力感が高いとその行為を成功させられるという思いが強くなり,動機が高まります。

また,自分を行動の主体として認識していくので,自分から能動的に関わっていこうという意識の源にもなります。

さらに,成し遂げられるという意識が高いので,そのために手段としての自分の行動を変化させることも容易になります。 つまり,自己効力感が確立された分野に関しては失敗しても再び取り組むことができる様になるのです。

自己効力感が低くなることのデメリット

逆に,自己効力感が低くなると,目的の行為をしている間には強いストレスを感じるようになります。 「自分は失敗するかもしれない」「これは自分の能力ではできそうにないなぁ」という思いが,抑うつ感や無力感を引き出してしまうからです。

自己効力感の低さは,失敗を恐れてその行動を避ける様になってしまうのです。

自己効力感を育む要因とは

では,自己効力感を伸ばすためにはどのような要因があるのでしょうか。 自己効力感の概念を提唱したA.バンデューラによると,次の4つ点が影響すると言われています。

1.熟達の経験 その分野に対して成功体験を積み上げることで自己効力感が確立していきます。 逆に,確立していない分野で失敗を経験すると効力感を下げてしまう危険があります。

2.社会的なモデリング 自分に似た人が持続的な努力で成功していると,「自分にもできるかも」と自分自身の可能性を信じられるようになります。 社会的なモデルは動機づけの起原として作用します。

3.社会的な説得による影響 自己効力感を持った分野で,社会的に認められたり励まされたりすると,より努力をするようになる。

4.自己の生理的状態 生理的な過剰反応を減らしたり,身体的な状態を整えることで自己効力感を高めることができる。 例えば,リラックスした状態で課題に臨むなど。

自己効力感は,新しいことに挑戦していくためのエネルギーにもなるし,外界に対して積極的に働きかけていこうというモチベーションにもつながります。

「自分はこの分野に対してやり遂げる能力と自信がある」という思いは,日々を幸せに感じて過ごしていく源にもなるのです。

療育へのまなざし

自己効力感を育むことは,自立のための大きな精神的支えになります。
そして,そのためにはこのブログでも度々お伝えしていますが,成功体験を積み上げることが何よりも重要な事です。 自己効力感は特定の分野に対する信念ですが,算数で「頑張ることができた」という思いは,国語でも「頑張ってみよう」という動機に広がっていきます。

発達障害を持つ子の療育だけでなく,子育て全般に言えることですが,成功体験を積むことは様々なことへ挑戦していくための素地になるのです。

さて,発達障害を持つ子の療育に関して言うと,やはり普段の生活で上手くいかない体験の多さから自己効力感の低い子は少なくありません。 ADHDの子などでは,分かっているけどコントロールが効かないという状態も多く,なかなか行為の主体として自分の行動をコントロールしている感覚を感じにくいことも原因の一つとしてあげられます。

従って,療育場面では環境からの影響を支援者が統制して,子どもが「自分の行動をコントロールしながら」課題に取り組める状況を作り出すこともひとつ重要な視点です。

また,自己効力感の低い子は課題や新しい取り組みに対して「失敗を予期」して,初めから取り組みを拒否する場合もあります。 その際は,課題の設定を簡単なものから始めたり,「大丈夫,きっとできるよ」という受容的な励ましを行いながら取り組みをサポートしていくことが必要です。 近しい子どもにモデルになって近くで取り組んでもらうのも有効です。

自己効力感を育むために大切な視点は,「自分が行為の主体となって成し遂げた」という感覚です。 成功体験を積む=単純に,課題を終わらせる,テストで100点を取るという事ではなく,自分の意志で取り組めた,がんばれたという感覚を子どもに持ってもらうことが必要です。 「成功体験のためだ!」と大人が躍起になって課題に取り組ませるのではなく,子どもが主体的に取り組める環境を用意する事を忘れずに。

そして,成功したときは子どもと一緒に喜こぶ!誉める!これが一番大切なことです。

ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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