【勤勉性-対-劣等感】 勤勉性対劣等感とは,E.H.エリクソンによって提唱された児童期の心理社会的発達課題である。心理学辞典,有斐閣
社会への入り口-児童期
同年代と一緒に社会生活を営んでいく,そのスタートは児童期,つまり小学校から始まります。
小学校では,時間割が決まっていたり,みんなで一緒に行動することが多くなり,子ども達が今まで生活してきた環境よりも,より社会性が求められていきます。
子ども達は,同年代の子どもや学校の先生をはじめとする大人たちからの影響を大きく受けて,社会生活へと進んでいくのです。
勤勉性とは
アメリカの発達心理学者エリクソンは,発達の各段階に克服するべき心理社会的危機があるとして,その各段階に発達課題を想定しました。
そして,社会への入り口となる児童期に目指される発達課題は「勤勉性」です。
勤勉性とは,勉強を熱心にやる…という事ではなく,社会に対して自発的に関わろうとする気持ちの事をさしています。
児童期では,主に学校で社会において必要な技術や知識,例えばルールを守ることや集団で一緒に作業に取り組み事などを学んでいきます。 それらの習得に自発的に関わっていくことが,児童期に獲得すべき「勤勉性」です。
劣等感に陥ってしまうのはなぜか
エリクソンの心理社会的危機では,獲得すべき発達課題と対極の状態を想定しています。
児童期では,勤勉性の獲得に失敗=他者と比べて上手くできなかったり,がんばっても
認めてもらえなかったりすると「劣等感」に陥ってしまうとされました。 劣等感は,自分の力をもっと伸ばそう,もっと出そうと思うポジティブな面も持つものの,子どもの活動意欲を下げてしまう危険性も大きく孕んでいます。
勤勉性を身に付けるためには
劣等感に陥らず,勤勉性を獲得するには,がんばったことが認められる経験が何より大切です。
勉強にしろ,社会において必要な技術や知識にしろ,その習得を通して社会に認められていく体験がとても大きく作用します。
また,児童期では今までよりももっと友達づきあいが深くなり,その関係性も重要になってきます。この時期に特有の仲間集団を「ギャングエイジ」と言います。
子ども達はその中で,お互いに認められることを強く望んでいくようになります。 そして,友達づきあいを通して,自分の特徴や友人の特徴を知っていくことにもなるのです。
自分の特徴や友人の特徴を知りながら,友人関係や学校といった社会の中で,自分の努力が認められることこそ,勤勉性の確立においてもっとも重要な事なのです。
療育のコツ
勤勉性の獲得は,その後の成長に大きな影響を及ぼします。
社会と能動的に関わっていきたいという気持ちや,様々なスキルや知識を習得したいという動機は,児童期に勤勉性対劣等感という心理社会的危機をどの様に乗り越えたかで大きく異なってくるのです。
上でも書きましたが,この時期に重要な事は「努力が正当に評価されること」です。
特に,発達障害を持つ子の場合は,児童期に劣等感を抱きやすい傾向があります。 それは,勉強やスキルの習得において,必要以上に「出来ない」という体験をしてしまう危険性が高いからです。
「出来ない」という体験は,少なからず誰もが経験することであり,それが次をがんばってみようという動機になる事もあります。
でも,必要以上に多くの「出来ない」体験をすることは,劣等感を強く感じ,その後の活動への意欲を低下させてしまいます。
発達障害を持つ児童期の子への療育的対応で気を付けたいのは,この「出来ない」体験を「出来た!」体験で上回っていくという事です。
その為には,課題の設定は重要になります。そして,その子の認知特性に合わせた具体的なサポートもとても大切です。
例えば,漢字の形の認知が苦手な子には,モールで立体的に作った”漢字”を見てもらい,視覚的に分かりやすいように理解してもらう,その上で書き取り練習をするなど。
そして,「出来た!」体験を周囲の大人や友達の中で認めてもらえることが絶対に不可欠です。
普段なかなか「出来た!」体験が少ない子には,簡単な課題でも良いので取り組んでもらい,出来たら大いに褒めて,そして子どもに自慢させてあげてください。
簡単な課題でも「算数のプリント5枚もがんばったよ!」とかの量でも良いし,その子が自分の努力を感じて,褒められる=社会に認められる経験をたくさんつませてあげましょう。
時には,友達通しでがんばったことの「自慢しあい&誉めあい会」なんかも良いかもしれませんね。
児童期こそ「成功体験」の積み重ねがより重要な意味を持つ時期です。
支援に携わる大人の方には,ぜひ子ども達が「努力が認めてもらえる」と思える様な環境づくりをしていってほしいと思います。