【レディネス】 学習が効果を持つためには,学習者の心身が一定の発達を遂げていることが必要であるが,このような学習成立のための準備性のことをレディネスという。
心理学辞典,有斐閣
レディネス-次の段階への準備
人は成長に伴って,様々なことを吸収し,身に付けていきます。
でも,何でもかんでも人はすぐに覚えたり学習できるものでしょうか。 初めてアイススケートをして最初からいきなりトリプルアクセルを決められる人はまずいないでしょう。
最初は,氷の上で立てる様になって,滑れるようになって,ジャンプができる様になって,そしてジャンプしながら回転ができる。 この様に,一つの動きを学習していく中でも段階を経て,人は動きを身に付けていきます。
この次の段階へ進めるために必要な能力や,経験,知識の事を「レディネス」といいます。
書き言葉の学習に見るレディネス
さらに一つ,例を見てみましょう。
人が書き言葉を身に付けるまでには,どんな段階があるでしょうか。
まず,言葉を認識する段階がありますね。赤ちゃんが大人が話す言葉を聞いて理解する段階です。
でも,話し言葉を理解した赤ちゃんがすぐに文字をかけるでしょうか。
まだ,ペンを持てるだけの身体の成長が追い付いていない赤ちゃんはまだ文字を書けません。
文字を書くためには,ペンを持てるようになり,手首やひじの関節を文字の形に合わせて動かせる必要があります。
この様に,レディネスには内面の成長と外側の身体的な成長という二つの要因があるのです。
遊びにおけるレディネス
もう一つ,レディネスには大事な要因があります。
子どもが同年代の他の子と一緒に遊べるようになるまでの,遊びのレディネス段階を見てみましょう。
まず,初めに子どもは一人で遊ぶ段階にいます。どうやらこの子はもくもくと粘土で遊んでいるようです。 しばらくすると,周りで他の子がプラレールで遊んでいるのを気にして観察するようになります。
その後,それぞれ,粘土とプラレールをしていますが,同じ空間で遊んでいるようです。 すると,ふとしたタイミングで別々の遊びをしていた子どもたちが,同じプラレールを使って遊び始めました。でも,まだ二人の間に交流はないようです。
しばらくは,2人ともそれぞれバラバラにプラレールで電車を走らせていましたが,「ここに駅をつくろうよ!」と一人の子が声をかけると「うん!」ともう一人の子も応え,遊びの共有へと広がっていきました。
レディネスには経験も大切
遊びのレディネスの例では,能力や体の成長度合いという事ではなく,「経験」という要因が一緒に遊ぶまでに重要な要素でした。
横で遊びを観察していた経験が,となりで同じ遊びを別々にやるためのレディネスとなり,またそれが次の一緒に遊ぶためのレディネスとなっていく。 この様な,前の段階の経験が次の段階へと進んでいくために必要となるイメージもレディネスの重要な側面です。
レディネスの形成には,内面的要因,身体的成熟要因,経験要因がそれぞれ影響していくのです。
療育へのまなざし
発達障害を持つ子への療育を考えるときに,レディネスを捉えることは基本中の基本といえます。
目的とする次のステップに進むためには,どんなレディネスが必要となるのか。 また,今の段階で備わっているレディネスからどんなステップアップを考えていけるのか。
それこそ,レディネスが備わっていない段階で単調ななぞり書きただ繰り返していても,子どもは文字を書けるようになりません。
それはソーシャルスキルの獲得についても同じことが言えます。 援助要請スキルを身に付けようとした時に,そもそもその子が自分の困っている状況を把握できていなかったら,援助を要請することができません。
この様に,目的とする行動やスキル,能力を考えていく際に,いまその子に備わっているレディネスはどの段階なのか,目的とする行動までの間にどれくらいの隔たりがあるのかを把握することが必要です。
レディネスの考え方に照らし合わせていけば,新しいスキルを獲得していくための療育は,現在と新しいスキルとの間にあるレディネスを埋めていく道のりだと言えるでしょう。
ワンポイント レディネスを把握するときは,内面,身体的成熟,経験の視点を筆頭に,常に多角的に捉えていきましょう。
特に凸凹の多い発達障害の子の場合では,多角的視点で捉えることが何より重要になります。
レディネスを捉えることは,その子に無理をさせないことや,必要以上の失敗体験を積ませないことにもつながります。 レディネスは準備性,準備が整っていなければ新しいことは習得できないですよね。その子に合わせた成長の道のりを発見していく一助になれば幸いです。