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【療育プチコラム】内言と外言~子どもはどうしてひとり言を言うのか?言語の2つの機能~

【内言/外言】  内言とは音声を伴わない自分自身のための内的言語であり,主として思考の道具としての機能を果たす。一方,外言とは他人に向かって用いられる音声言語であり,主として伝達の道具としての役割を果たす。

心理学辞典,有斐閣

子どものひとり言はどうして出るの?

子どもの遊び場面を観察していると,しばしばひとりで何やら話しながらおもちゃを動かす様子が見られます。

それは単にファンタジーの世界でストーリーを楽しんでいる時だけではなく,ブロックでロボットをつくっている時などにも見られる現象です。

子どもはどうしてよくひとり言を言っているのでしょうか。 そこには言語のもつ2つの機能が関係しています。

研究の当初,子どもの発するひとり言は「自己中心語」と呼ばれ,発達の過程で次第になくなるものだと考えられてきました。 しかし,そこに疑問を投げかけたのが,「発達の最近接領域」を提唱としたヴィゴツキーです。

「発達の最近接領域」について詳しくは

ヴィゴツキーの研究

ヴィゴツキーは研究の中で,幼児が見知らぬ人の中ではひとり言の頻度を減らし,反対に何かの課題に取り組んでいる場面ではひとり言の頻度を増やすことを発見しました。

それまで考えられて来たような「自己中心語」では,子どものひとり言は自分に向けられており,利き手の存在を意識していない言語とされていました。 もし,聞き手を意識していないならば見知らぬ人の中でもひとり言の頻度は変わらないはずです。

その結果から,ヴィゴツキーは子どものひとり言は,「周りの仲間が聞いて理解することを期待して発せられており」,「課題の解決のために,言葉の力を借りて思考を推し進めている」と考えました。

つまり,言葉には他者とのコミュニケーションの機能と思考のための機能があるのです。 そして,コミュニケーションのための言語を「外言」,思考のための言語を「内言」と名付けました。

「外言」と「内言」は始め2つに分かれてはいません。

人は,まず音声言語としての「外言」を身に付けます。 次第に言語を自分の内側に取り込んでいき,思考の道具として音声を伴わない形で言語を使えるようになるのです。これが「内言」です。
子どものひとり言は,「外言」を取り込んでいく過程に見られる現象の一つであり,言葉にしながら考えている,いわば音声を伴った「内言」なのです。

コミュニケーションの道具としての外言

子どもが最初に使えるようになるのは,通常外言です。 子どもは主に養育者とのやり取りや会話を通して,音声を認識し言語を使えるようになっていきます。

外言はコミュニケーションの手段としての言語なので,構文や意味の内容に関して相手に伝わるための一定のルールの様なものがあります。

思考の道具としての内言

内言は,主に思考のために使われる言語なので,自分のための言語という側面を持ちます。 なので,相手方が存在しないため,自分の中で文章が圧縮されたり,省略されたりしています。

例えば,「帰りにスーパーに寄って納豆を買って帰ろう」と考えたとします。 きっと,上の様な文章で考えるよりも「帰り・スーパー・納豆」の様に省略した形で思い描く人の方が多いと思います。

なんとなく行なっている動作や,無意識に行なっている行動をうまく言語化できない,というのは内言によって圧縮・省略されている可能性があります。

この様に,同じ言語活動でも外言と内言ではその目的と使われ方は異なるのです。

内言の発達―自己調整機能

内的言語は,子どもの中の表象機能と一緒に発達していきます。 この内的言語が発達するとどういう変化が起きるのかというと,子どもの中に自己調整のための機能が育っていきます。

子どもは始め,外言を理解するようになります。 外言の理解が進めば,大人の指示や問いかけに応えることができる様になります。

しかし,まだ内言の発達は未熟なため,「自分の内部で言葉によって行動をコントロール」することは難しい段階にいます。

これは,「言えばできるのに自分ではできない」という状態の事です。

人は行動をコントロールするときに,言語を使っています。 それは,いわばルールを自分の中に取り込む作業の様なものです。

「おうちに帰ってきたら何をする?手を洗う」という行動を内言によって覚えておくのです。
行動を抑制したり,コントロールするためには,内言の発達が必要なのです。

療育へのまなざし

言語の発達は通常ルートでは,外言から内言というルートを通りますが,自閉症の子の場合はその限りではない場合があります。

言葉として出て来る単語は少ないけど,自分の内側で使える単語は多いというパターンです。

ここには,言語の表出が阻害されてしまったり,音声言語として話す際に別の意味内容に引っ張られてしまったりと自閉症の脳機能特有の影響がある様です。 話し言葉の数が少ないからと言って,言葉を理解できる能力が少ないという訳ではない,という事は自閉症の子と関わる際には絶対に忘れないでほしいポイントです。

内言は,内側で使われるので圧縮や省略が起こっています。つまり,自分なりの意味合いで言語が用いられているのです。

ここにさらに,自閉症特有の意味理解の独特さという特性が加わります。 いわゆるアスペルガーの特徴を持つ子のコミュニケーションが独特になってしまうのは,コミュニケーションとしての外言が内言側に引っ張られてしまうためです。 そこから,自分には意味がわかるのに,相手には伝わらない!という要因の一つになっています。

自閉症傾向のある子の療育においては,この外言と内言のズレに着目してコミュニケーションを構成していく必要性があります。 同じ単語でも,その子の内側でどういう用いられ方をしているのかを理解することが大切です。

そして,そこに合わせてこちらの伝え方を変化させたり,時にはその子の内言と外言のズレの修正を促していくことがコミュニケーションを円滑にする手段ともなります。

また,内言は行動抑制とも強く関連しています。 知的障害を持つ子では,内言として使える単語の数を増やすことで自分の行動のコントロールができる様になったり,社会的なルールを把握できる様になったりする場合があります。

行動問題を抱える場合に,言語理解からアプローチする手段も,方法の一つとしてあるということをぜひ覚えておいてください。

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ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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