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【療育プチコラム】ステレオタイプ~あなたはありのままに人を見ていますか?~

【ステレオタイプ】  集団の成員全般に対して十把一絡げ的な認知(信念や期待)を割り当てること。

心理学辞典,有斐閣

私達は人をありのままに見ているか

あなたは初対面の人と会った時に,その人をどうやって理解し,判断していますか? 自己紹介の時に私達は,結構自分の「所属」や「肩書き」について話していませんか?

人はそれぞれ個人個人で異なる性質を持っています。 でも,初対面でいきなりその様な個人的な性質を見極めることは困難です。

そういう時に,私達はその人の所属する集団や肩書きによってある程度予測を立てようとします。 これが,「ステレオタイプ」という心の働きです。

ステレオタイプと偏見,差別

ステレオタイプは,特定の集団に属する人を同等とみなして,過度に単純化,一般化された認知の事をさします。

つまり,「お坊さんなのか,真面目そうだな」とか「グーグルの社員か,数字に強くて頭いいんだろうな」といったその人の所属や肩書きによって,その人に対する予測を立てるのです。

往々にして,ステレオタイプに依って認識される概念やイメージは固定的なもので,しばしば感情も伴います。 いわゆる「金髪は不良で怖い」という様なイメージですね。 もちろん,決して金髪の人が全員不良で,全員怖い人の訳はありませんが,私達はステレオタイプによって無意識にその様な判断をしてしまう場合があるのです。

この無意識の判断が,否定的な内容の場合を「偏見」といい,その否定的な内容に基づいた行動がなされる場合を「差別」といいます。 反対に,ステレオタイプは否定的な面以外にも肯定的な一般化された認知という側面も持ちます。

どうして人をステレオタイプで見てしまうのか

私達は日々膨大な量の情報にさらされてい生活しています。 それは,文章やIT化された数字・文字といった情報だけではなく,日常的に見聞きしている様な環境からの刺激や,身体の中の内部情報,そして人との交流なども含むものです。

その様な,大量の情報の中で私達は常に何かを判断したり,認識したりしなくてはいけません。 そのため,人は認知を無意識に節約するという特性を持っています。

ステレオタイプは,その認知の節約のうちの一つです。

膨大な情報を一つ一つ処理していてはいくつ脳があっても足りません。 そこで我々は,大きな特徴からまずざっくりと情報を分類して,その後に小さな差異を処理しようと働くのです。

その様な働きが,人に対しても行われます。 それが,ステレオタイプによる処理なのです。

私達が普段認識する人の中には,もちろん自分にとってそこまで関わりのない人だって多くいます。 道ですれ違う様な,全ての人をいきなり詳細に理解する様なことは私達の脳では到底処理できません。

だから,まず集団の特徴という大きな部分から人を理解し,判断しようとするのです。

ステレオタイプが影響する過程

ステレオタイプは,その様に認知の節約,つまりは情報処理の簡略化によって作用しています。

そして,認知を節約するためにはその処理が無意識化で自動的に行われることが必要です。

私達は,例えば道で「スキンヘッド」の人を見たときに,無意識化でスキンヘッドの人に対するステレオタイプが活性化しているのです。 そして,その無意識化で活性化したステレオタイプが,実際にその人の人物理解に影響を及ぼします。 これをステレオタイプ適用といいます。

スキンヘッドという特徴をもつ集団のステレオタイプ適用が行われると,その人物に対して「怖いかもしれない」「危ない人なのかも」といった様にステレオタイプに基づく人物理解がされます。

もちろん,スキンヘッドの人がすべて怖い人ではなく危ない人ではないとわかっていても,無意識にその集団全体へのイメージが適用されるのがステレオタイプの特徴なのです。

ステレオタイプを抑えることはできるのか

ステレオタイプは,偏見や差別の原因になることもあり,私達の多くはそれぞれ個別に相手のことを理解したいと望んでいると思います。 では,そんなステレオタイプを抑えることはできないのでしょうか。

ステレオタイプは無意識化で行われる処理のため,意識化することである程度顕在化を抑えることができます。 相手をステレオタイプで認識しないようにしようと思えば,私達はある程度その思い込みを排除する事が出来るのです。

ただし,ここにはいくつかの注意点があります。 まず,ステレオタイプを意識的に抑えるためには,認知資源を必要とするという点です。

認知資源とは,いわば自分の意識に注意を向けるためのエネルギーの様なものです。 そのエネルギーが足りない場合,疲れている時や仕事が立て込んでいたり,他の情報の処理に資源が使われている時などはステレオタイプを意識的に抑えることが難しくなります。

これは,経済が困窮したり社会的に疲弊した世の中で差別や偏見が増えて見えることからもうかがい知ることができるでしょう。 生活に余裕が無かったり,仕事が上手くいかなかったりすると認知的資源は減っていきます。 それにしたがって,抑えられていたステレオタイプが適用されてしまい,差別や偏見へとつながってしまうのです。

また,ステレオタイプは自分自身の評価が脅威にさらされた場面でも起きやすくなります。

例えば,「女性は感情的に判断する」というステレオタイプ(否定的な内容にもつながる可能性があり偏見といえる場合もある)を持っている人がいたとします。 その人が会社の中で,女性の上司から否定的な評価を受けると,「あの上司は女性だから感情的で冷静な判断が出来ていない」と愚痴をこぼすかもしれません。 これは,女性上司の個人的な資質ではなく「女性」という社会的な属性に基づいた判断で,ステレオタイプ的判断です。

この様に,ステレオタイプを抑え込むことは意識的に可能なものの,そこにはいくつかの注意点が必要なのです。

ステレオタイプ解消のむずかしさ

上記の様に,ステレオタイプの解消のためにはなかなかに難しい課題があります。 さらに,ステレオタイプの解消のためには,認知的節約の過程における問題もいくつかあります。

一つは,ステレオタイプが無意識に自動で生起するため修正の機会が少ないという問題です。 これは,意識化することで多少対処できますが,まずステレオタイプが働いていることに気づく必要があります。

もう一つは,ステレオタイプに合致しない相手の行動を見落としたり,無視したりする傾向が人にはあるという点です。 人の認知の節約過程では条件に合致しない情報を切り落とすことで,情報処理のためのエネルギーを節約しています。 従って,ステレオタイプに合致しない情報は切り捨てられることも多いのです。

また,合致しない特徴だけを集めて,例外のサブタイプ化がなされることもあります。 サブタイプ化がなされることで,予めあったステレオタイプはそのまま維持されて残ってしまうという事にもなります。 「あいつは例外」ってやつですね。

さらにステレオタイプは厄介な特性を持っていて,意識的にステレオタイプの顕在化を抑えていたとしても,あたかもダイエット後のリバウンドの様に,抑え込まれていたものがなくなると前より増加して戻ってしまうという傾向も持っています。 これは,そのまま「リバウンド効果」と呼ばれるものです。 実験で,1回目は意識的にステレオタイプを排除して人物の判断をしてもらい,2回目は何の制限も設けないで人物判断をしてもらった場合,2回目に判断をしてもらった時には,よりステレオタイプ傾向が強く出ているといった結果が確認されています。

ステレオタイプを解消のためにできること

なかなかステレオタイプというのは,厄介で頑固そうな印象を持ったことかと思います。 そう,ステレオタイプを解消するという事はなかなか難儀な事なのです。

では,私達はステレオタイプに対して無力なのかというと決してそうではありません。 ステレオタイプは,”予めつくられたその集団への認識の枠組み”なので,その集団に対して新たな知識や理解を深めていくことで修正していくことができるのです。

その集団の情報を増やすことでその人の中のステレオタイプは変化していきます。 実際の場面でも意識的にステレオタイプを抑えている時に,新しい発見があればステレオタイプは変わっていくのです。

「偏見をなくすためには相手を知っていくこと」 まさにその通りなのです。
ただ,先ほどあげたように「サブタイプ化」がなされないようには注意は必要です。

療育へのまなざし

療育の中でもステレオタイプの落とし穴は存在します。 目の前にいる子をひとつの”障害”という社会的なカテゴリーで見てしまう危険です。

もちろん,発達障害支援に携わる方々はその子を独自の存在として認識しようとしている事と思います。 ですが,ステレオタイプは無意識に作用するため,知らず知らずのうちに”障害”という括りの中で見てしまう危険が常に伴っているのです。

“障害”という括りで見てしまう危険は,そこに合致しない情報を見落としてしまう危険でもあります。 発達障害なら視覚優位,というステレオタイプにとらわれてその子の聴覚処理の能力を見落としてしまったら,もしかしたら他にも選択できたであろう支援の幅も狭まってしまうことになります。

常に,一人一人の子を「その子」として認識していくことが療育の現場では重要な事です。 ステレオタイプによるカテゴリー化を防ぐことで,支援の幅は柔軟になり選択肢を広げることができます。

と,恐らく発達障害支援に携わる方々はそんなこと百も承知でしょう。 ここで強調しておきたいことは,「認知的資源が枯渇するとステレオタイプ的に判断しやすくなってしまう」という点です。
特に対人援助職は情緒的にも多くのエネルギーを消費し,常に詳細に人物理解をしようとするので認知的資源は減りやすい状況にあります。 その上で,職場内での不必要なストレスや,煩雑な事務処理などに追われると,子どもを詳細に見ていくための認知的資源は不足してしまう危険性があります。

認知的資源が不足した状況では,熟練の支援者といえども自分の心身を守るために自動的にステレオタイプが活性化して,認知の節約を行おうとすることがあるのです。 これは,人間の防衛本能の一種なのでなかなか防ぐことは難しくなります。

ステレオタイプを排除して,子ども達それぞれに個別の支援をしていくためにも,職場内での過度なストレスは避けるべきものなのです。 対人援助職におけるストレスマネジメントや労務管理の重要性はこのようなところにも表れてきます。

対人援助職にとってバックヤードの仕事効率化や,職場内人間関係の改善は,そのまま支援の質にも直結するほど重要なことなのです。 訓練している人間でも無意識をコントロールすることはなかなか難しいことで,同時に多くのエネルギーを消耗することです。

働く人が余裕をもって仕事にあたれなければ,支援の質を上げることはどんどん困難になっていきます。 ぜひ,職場内でマネジメントの立場にいる方にはその様な点も踏まえて労働環境の改善を考えて頂けたらと思っています。

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ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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