療育のキーワード

【療育のキーワード】スキーマ-情報の認識に影響を与える心の機能

【療育のキーワード】スキーマ-アイキャッチ
【スキーマ】
知識を構成するモジュールとして想定される概念であり,認知過程を知識に基づいて説明するうえで広く用いられる理論的な概念である。特に知識に導かれて進行する能動的でトップダウンな過程の説明に中心的な役割を果たす。
心理学辞典,有斐閣

私達は外の世界をどう認識しているか

私達は,常に自分の外の世界から情報を受けて生活しています。
音やにおい,光や肌への刺激などの感覚,会話や文章,風景や絵などの情報など。

私達は,それらをいつもどのように認識して意識しているのでしょうか。

刺激は,まず目や耳といった感覚受容器によって受け取られます。
そこで受け取った刺激は脳に伝えられ,処理がなされるのです。

脳に伝えられた刺激は,過去の経験などと比べられて意味が理解されます。

「スパイスとにんじん,玉ねぎのにおいがする。あ,これはカレーのにおいだ!」と言ったように。

情報の処理には,単にその刺激を受け取るだけではなく,過去の経験と照らし合わせたり刺激の意味を理解すると言った過程が存在しているのです。

私達はいつも「サングラス」をかけて世界を見ている

つまり,私達は常に外からの情報をそのままの状態で認識しているのではなく,受け取った情報を「過去の経験」と言ったフィルターを通して捉えているのです。

さらに,意味を理解するときには,意味を捉えるための心理的な”枠組み”も作用しています。

例えば上の例の場合でパン屋さんは「スパイスとにんじん,玉ねぎのにおい」を感じたときに,もしかしたら「カレーライス」よりも先に「カレーパン」をイメージするかもしれません。

これは,パン屋さんが心の中に持っている”意味を捉えるための枠組み”が「パン」という情報を強く引き出しやすい性質を持っていたためです。

黒いサングラスをかけていれば黒っぽく見える様に,赤いサングラスをかけていれば赤っぽく見える様に, 私達は情報をそのまま受け取るわけではありません。

常に「サングラス」をかけているように,一種のフィルターを通して世界を認識しているのです。

スキーマとは

心の中で「サングラス」の様な働きをするのが「スキーマ」と言われる機能です。

別記事の中で,認識の発達「シェマ」を紹介しましたが,「スキーマ」と「シェマ」は読み方が違うだけでほぼ同一のものです。 (発達心理学の世界では「シェマ」と呼ばれることが多く,認知心理学の世界では「スキーマ」と呼ばれることが多いです)

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スキーマは,過去の経験を通して形成された知識のまとまりの事です。

知識のまとまりの事を「モジュール」という言い方もしますが,情報を処理するための一種の枠組みの様なものです。

特に肩書きや所属集団などついてまとめられた知識のまとまり=役割スキーマは「ステレオタイプ」とも言います。

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人が刺激や情報に対して注意を向けたり認識できるキャパシティには限りがあります。

ですが,この世界には数多くの刺激や情報が溢れています。
特にネット世界が進化した現代では年々その情報量は増えていっており,現代人が一日で接する情報量はなんと江戸時代の人の1年分,平安時代の人の一生分とも言われています。

これらの大量の刺激や情報を効率よく処理するために,自分の知識や過去経験を元にした”フィルター”を通して刺激や情報を自分が処理しやすい形に変えるのが「スキーマ」の役目です。

スキーマって例えば?-「パスタマシン」のようなもの

なんとなく言葉だけだと「スキーマ」ってイメージしづらいですよね。

例えば,「パスタマシン」を想像してもらうとちょっとだけイメージの助けになるかもしれません。

上から入れた生地が押し出されながら加工されてパスタの形になるパスタマシン。

パスタマシンのように,私たちは日々身の回りにある刺激や情報をそのまま受け取っているのではなく,一度心の中のパスタマシン=「スキーマ」を通して加工された状態で受け取っています。

上から入っていった「情報」が「知識の枠組み」によって形を整えられたり,形が変化したりして受け取っているのです。

心の中にあるパスタマシンのようなもの,これが私たちの認識を左右する「スキーマ」です。

このように「スキーマ」の中で過去経験や蓄えられた知識の枠組みによって,情報を整えたり,形を変化させたりしているのです。

日常で使われるスキーマ

スキーマは,抽象的で広く一般化された知識として適用されます。

例えば「レストランのスキーマ」では,レストランではどの様な行動をするのかといった抽象的な知識が枠組みとしてまとめられているのです。

レストランに入ったらまず,たいていの場合店員さんから案内されるのを待つのではないでしょうか。

それはきっと初めて行ったレストランでもそうしますよね。

また,初めていくレストランに入った時に,すぐに誰かが「いらっしゃいませ」とあいさつしてきたとします。 私達は,この人の事を知りません。
でもきっとこの”誰か”を店員さんだと認識することでしょう。

これが「レストランスキーマ」によって導かれた,情報の処理なのです。

スキーマは共同して働く

スキーマは,通常「レストランスキーマ」「車に乗るスキーマ」「会社での振る舞いスキーマ」の様に独立して働いています。

しかし,例えば仕事で取引先との接待という状況が生じたときには,上の3つのスキーマが共同して,「接待スキーマ」の階層として働く事もあります。

また,同じレストランに行くという状況でも,仕事の接待で行くのか,家族と行くのか,恋人とのデートで行くのかではそれぞれまた異なるスキーマが働く可能性があります。

「仕事スキーマ+レストランスキーマ」,「家族スキーマ+レストランスキーマ」,「デートスキーマ+レストランスキーマ」のような感じです。

そうなると,それぞれレストランで行う振る舞いはや状況の認知は異なってくることでしょう。

この様に,スキーマは階層化されたり,埋め込みによって共同して働いたりすることもあるのです。

スキーマは情報を方向づけてくっつける

私達の日常生活には数多くの情報や刺激であふれています。

その一つ一つを精細に処理していては,私達の脳はすぐにパンクしてしまうでしょう。

そこで,スキーマを使うことによってある程度情報の方向付けを行うことで,効率よく処理できるようにしているのです。

スキーマを使うことで格段に情報の処理は早くなり,楽になります。

しかし,同時にここには落とし穴もあるのです。

それは,スキーマに合致しない情報は見落としたり,変化して記憶してしまいやすいという点です。

スキーマには,情報同士をくっつける役割もあるのですが,一方で無意識に情報を取捨選択してもいます。
これが,いわゆる「思い込み」による情報の認識間違いなどを引き起こす原因でもあるのです。

「都合の良いことしか覚えていない」「都合の良いように解釈してしまった」というよくある”アレ”です。

スキーマは常に無意識下で自動的に働いているため,重要な場面では「思い込み」による誤解や都合の良い解釈がないかに気を付ける必要があるのです。

療育へのヒント

スキーマは外界を効率よく捉えるための心の機能です。

でも,このスキーマが特殊な場合,外界の情報の捉え方がユニークな形になることがあります。

これが,いわゆる自閉症スペクトラムや発達障害の子がユニークな形で世界を認識していることの一つの理由でもあります。

スキーマの形が,大多数のマジョリティと異なるために「暗黙の了解」が出来なかったりするのです。

スキーマには文脈効果と呼ばれる機能もあります。

「このところ蒸し暑くなってきましたね」と言われれば,「あぁ最近蒸し暑いですね」と”文脈”から「このところ」の意味を捉えることができます。

しかし,自閉症スペクトラムの特徴を持つ子の中には文脈から「このところ」の意味を捉えられないことも少なくないのです。

それは,「このところ」が場所をさす言葉だというスキーマと時間をさす言葉だというスキーマを自在に入れ替えられないために起きる問題です。

いわゆる定型発達と呼ばれる人たちは文脈に合わせて自動的にスキーマが入れ替えられているのです。

しかし,発達障害を持つ子では意識的に行わなければスキーマの入れ替えが難しいのです。

発達障害を持つ子たちのユニークな思考様式を理解することは,彼らの持つユニークなスキーマを理解する事でもあります。

「なるほど,この言葉はこういう文脈で理解しているからズレが起きたのか」という理解が出来れば言葉かけももっと工夫することができるでしょう。

スキーマのズレは能力の優劣を意味するわけではありません。

スキーマはその人の過去経験を参照して形成されるものなので,一人ひとりそれぞれが異なるスキーマを持っているのです。

発達障害を持つ子にとってはスキーマを自在に入れ替えたり,組み合わせたりすることはなかなか難しい場合があります。

抽象化する過程で,特殊な解釈が混ざってしまう事もあります。

その子が周囲の情報をどの様に処理しているのかを考えること,理解することは,その子への支援を考えていく大きな参考になります。 ぜひ,スキーマという概念もその子を理解するアプローチの助けにしてみてください。

ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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