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【療育プチコラム】ラポール~もし,カウンセラーがAIロボットだったら~

【ラポール】
カウンセリングをはじめとする心理療法において,治療者(面接者)とクライエントと間に存在する人間関係をさす。

心理学辞典,有斐閣

友好的なつながり-ラポール

AI技術の進化がめざましいですね。囲碁や将棋といった分野でもAIがプロの棋士を破る時代になってきました。

さて,そんなAI技術が進んで昨今ですが,あなたはもしカウンセリングを受けるなら,人間のカウンセラーとAIのカウンセラーどちらのカウンセリングを受けたいですか?

恐らく,多くの人は人間のカウンセラーのカウンセリングを受けたいのではないでしょうか。 AI技術が進歩すれば,本当に近い将来AIカウンセラーなるものが現れてもおかしくはないですが,なんとなく人間の方が良いように思いますよね。 それはどうしてでしょうか。

カウンセリングや心理療法において,カウンセラーとクライエント(治療を受ける人)の間にある友好的なつながりの事を,「ラポール」と呼びます。

「ラポール」は,フランス語で「関係」という意味を表す言葉ですが,ことカウンセリングや心理療法の場面になると,単純な関係性と言うよりは,信頼関係にも似たポジティブな関係性を表す言葉として使われています。

効果的なカウンセリングを行うためには,ラポールを形成することが必要だとされています。
ではなぜ,カウンセリングではラポールを形成する必要があるのでしょうか。

ラポールはカウンセリングに必要不可欠?

カウンセリングを受けようと思った時に,信頼できるカウンセラーに話を聞いてもらいたいと思うのは当然ですよね。 信用できなそうな人に,自分の事情や深い内面の話はしたくなくなってしまいます。

また,きっちりと信用できそうな人でも,話を真剣に聞いてくれなかったり,否定ばかりされてしまっては,そこから話は深まっていきませんし,また話す気がなくなってしまいそうです。

カウンセリングは,多くの場合言葉を媒介に洞察を深めたり,気づきを得たりしていきます。 そんな中で,「この人に話しても大丈夫だろうか…」と思う相手とのカウンセリングが効果的でないのは自明の理ですよね。

さらに,カウンセリングの中ではクライエントの心の中で大きな変化が起きたり,つらい記憶や苦しい思い出などを思い出すこともあります。 その時,クライエントの心の中にはさまざまな感情が沸き起こってきます。その感情を素直に出せたり,つらい記憶を思い出しても大丈夫だと思えるのは,目の前にいるカウンセラーに対して信用できるという思い,「ラポール」が形成できているからです。

そして,感情を受け止めてもらうことで,さらに深い洞察に進めたり,問題に対して向き合うことができるのです。

人間とロボットの違いは,どうやらこの情緒的な交流が期待できるかというところにありそうですね。

感情を受け止めてもらえる,という思いこそカウンセリングにおいてとても重要な事です。 そんな受容的な雰囲気を作り出す基こそ,カウンセラーとクライエントの間にある「ラポール」という大切な関係性なのです。

療育へのまなざし

ラポールの形成は,療育や教育の世界でも欠かすことが出来ない視点であると思います。

それは,上でも書いたように,人は感情を受け止めてもらうことによって,さらに深い洞察が出来たり,問題に向かえたりするからです。 この,一緒に問題解決を目指して伴走している状態こそ,ラポールの一つの形と言えるでしょう。

療育に関しても,スキルの習得や学習において様々な問題や困難場面にぶつかります。時には上手くいかなくて失敗する事もあるでしょう。 その時,支援者と子どもの間に友好的な情緒的交流があれば,子どもはまた同じ問題に向かっていくことができるでしょう。

「励ましが通じる関係性を築く」。 これが療育における一つのラポールの形ではないかと思っています。

お互いの間に信頼関係が存在しなければ,支援者がいくら励ましても,その声は子どもの心に響きません。 響かないだけなら良いのですが,時としてその言葉は子どもを追い詰める言葉にも変わってしまいかねない危険性も持っています。

励ましが通じる様な情緒的交流ができていること。これは,子どもが問題に向かうときに「支援」を行うための第一歩と言えるでしょう。

また,ラポールが形成されている様な関係性では,言葉に表れないような子どもの情報を察知できるようになります。 それは,情緒的交流ができていることによって,微妙な変化を支援者が捉えることができる様になるからです。

子どもの感情の変化,疲れの具合などは療育の進行に大きく影響してきます。このノンバーバル(言葉以外の非言語的な発信)な情報を受け取ることは,言語的な表出が苦手な子に対して支援をしていく上ではとても重要なポイントにもなります。

療育においても,ラポールの形成は支援を開始するスタートと言えるでしょう。 そして,とかくパワーの不均衡が起こりやすい子どもと支援者という関係性ですが,支援者は子どもに対して常に受容的態度で接することが,ラポールの形成においては何よりも必要不可欠な事です。

ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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