【象徴機能】 象徴,すなわち所期から分化した能記を用いて様々な対象を表現する機能のこと。
心理学辞典,有斐閣より
どろだんごはハンバーグ,ごっこ遊びのもとになる能力とは
どろだんごで作ったハンバーグと,水の入ったコップは美味しいコーンスープ。そんな砂場での”おままごと”の一風景。 目の前に見えているのは,まぎれもなく砂の塊とただの水ですが,おままごとの世界ではそこには豪華なディナーが広がっています。
見立て遊び,とも言われるようなこういったおままごとの風景ですが,どうして人は目の前にある砂や水を,ハンバーグやスープとして置き換えられるのでしょうか。
この,物事を別の物事で置き換えて見立てる,という能力は「象徴機能(シンボル機能)」と呼ばれています。
「象徴機能」は,発達心理学の大家ピアジェによって提唱された概念です。 ピアジェは認識的発達論の中でこの象徴機能を重要視しました。
ピアジェの発達論では,こころの中のイメージなどを扱う表象の能力が中心に据えられています。 象徴機能は,この表象のあり方のひとつであり,前操作期(2歳ごろから7歳ごろ)に現れてくる能力と言われています。
先の例で出した様に,象徴機能とは,目にみえているものをそのものとして扱うのではなく,他のものに見立てて扱う能力のことです。 おままごとのどろだんごハンバーグもそうですが,子どもが良くやるリモコンを手に取って「もしもし~」と電話の様に扱うことも,この象徴機能の現れの一つです。
本来無関係である,リモコンが心の中の象徴機能によって電話と結び付けられるのです。
また,おままごとのシーンに戻ってみましょう。ハンバーグをつくりながら「私はお母さん」と言っている女の子がいます。 これも,自分を別の対象である「お母さん」に見立てている象徴機能の現れです。
女の子は,お母さんの真似をして,葉っぱのお皿にハンバーグをのっけます。そして,「こぼさずに食べるのよ」と一言。 女の子の中に,「お母さん」というモデルのイメージができ上がり,目の前に実際にお母さんがいなくても真似をすることができる様になっています。
およそ,1歳を過ぎて来るとこのように次第に象徴機能に基づく模倣がなされるようになってきます。 その場で見たモデルの動きを真似する即時模倣とは,異なり,おままごとの中での模倣の様な,モデルの動きを見てから数時間あるいは数日経過した後になされる模倣は,延滞模倣と呼ばれ,象徴機能の発達によってできる様になってきます。
象徴機能が使えるようになってくるということは,現実世界にある事柄をそれ自体ではなく,イメージや表象に置き換えて,自分の心の中で扱えるようになることを意味しています。
私達は「りんご」という言葉を聞けば,目の前にりんごが実際になくてもりんごをイメージすることができます。 それも象徴機能の発達によるものであり,同時に言語は象徴機能と密接な関係をもって発達していくのです。
療育へのまなざし
象徴機能の発達は,おままごとをはじめ抽象的な世界を共有する遊びにおいて非常に重要な役割を果たします。 逆を返すと遊びの中からその子の象徴機能の発達段階を見立てるヒントも得ることができます。
電話の例えで見てみると,実際の電話を使って延滞模倣ができる,電話のおもちゃを使って延滞模倣ができる,積み木を電話に見立てて延滞模倣ができる,他者が積み木を電話に見立てていることに気づくことができるだと,象徴機能の抽象度が異なります。
象徴機能の発達,ひいては表象機能の発達はルールのある遊びをする際には顕著にその差が表れます。ルールという実体のないものを遊びの中で共有するのですから,象徴機能の発達としてはおままごとよりも難しい部類に入るでしょう。
遊びにおいても,その子の発達の度合いを見立てて,必要ならば例えば視覚提示などでサポートを入れていけると良いですね。
おままごとを代表に,遊びの中には象徴機能を使うものが数多くあります。 遊びが楽しくなれば,自然と象徴機能を使っていき,その発達を促すことにもつながります。遊びへの介入に関しては,まずは,子ども達が楽しく遊べるという事を第一義にサポートしていきましょう。