対象の永続性
心理学辞典,有斐閣より
乳児は生後8か月くらいから,対象物を実体性をもつ永続的な存在として捉え始める
見えなくなってもそこにある-対象の永続性
目の前に,コインが置いてあります。そこに布をかぶせました。コインはありますか?
さて,マジックではありません。大人の人であれば,布をかぶせた後もコインは布の下にあることはわかりますよね。 これは,心理学的にいうと「対象の永続性」を獲得しているためにわかるのです。
そう,「対象の永続性」の獲得とは,見えなくなっても物は突然に消えたりしないことを理解できることを指すのです。
この「対象の永続性」を逆手に取ったのが,マジック。物は見えなくなってもそこにあるはずだ!なのに,消える! その信念をあざむかれることこそマジックの醍醐味ですよね。
では,この「対象の永続性」を人はどれくらいの頃から理解するのでしょうか。
一般的には,おおよそ生後6~8か月の頃だと言われています。 それ以前の発達初期の乳児におもちゃを見せた後,そのおもちゃに布をかぶせてしまうと,発達初期の乳児は何が起こったのか分からない様子で平気な顔をしています。 でも,生後6~8か月くらいになってくると,かぶせられた布をずらしておもちゃを探したり,おもちゃを欲しがって泣いたりするようになります。
これは,見えていなくても物が変わらずにそこにあり続けることを理解してきたからです。
そして,この生後6~8か月という時期はちょうど”人見知り”の始まる頃とも重なっていますよね。 これも,乳児が同様に「ひとの永続性」を理解したために,見えなくなったお母さんや養育者を探す様になるためなのです。
「対象の永続性」の理解は,乳児の中に表象の世界が形作られてきていることも意味しています。 表象とは,こころの中のイメージや記憶の様なもので,私たちも普段表象機能をたくさん使っています。
表象の代表的なものは言葉です。言葉というものは,ある日突然出て来るものではなく,「対象の永続性」などの理解を通して,徐々に発達していくのです。
療育へのまなざし
知的障害をもつ子の中には,「対象の永続性」の理解が学童期ごろまで進んでいない子も中にはいます。その場合,必然的に表象機能はまだ未発達の状態になります。 表象機能は,こころの中でのさまざまな操作の基となる機能です。こころの中の操作とは,例えばもののカテゴライズやスケジューリングなどです。
「対象の永続性」の理解が進んでいない場合は,「いま,ここで」の理解を中心にした繰り返しのサポートが有効になります。 いま,この場ではどういうことをするのか,写真や絵カードなどの補助コミュニケーションツールを使いながら,その都度の理解を促していく必要があります。 写真や絵カードなどを使うことで,同時に表象機能の発達も促していく狙いもあります。
この段階の注意点としては,「見えないものの理解は困難」だというところです。出来るだけ実物を使ったり,実物を感じられる写真などを用いて,その都度都度理解をサポートしていく。 表象機能の発達段階に合わせたサポート方法や療育を選択していきたいですね。