療育のキーワード

【療育プチコラム】自尊感情~自分も他人も大切!そのために一番大事なこと~

【自尊感情】  自己に対する評価感情で,自分自身を基本的に価値あるものとする感覚。

心理学辞典,有斐閣

自尊感情とは

自尊感情は,いわゆる自分についての自身であったり,自分は価値のある存在だと思える様な,自己についての肯定的な感情です。

自己効力感が能力や行為という自己の限定的部分の認識なのに対して,自尊感情は自分についての全般的な認識の事をさします。 特に,自分の性格や特徴など比較的安定した自己概念に対する肯定的な感情は「特性自尊感情」といいます。

自己効力感について詳しくは↓


それに対して,テストで100点を取った,親からほめられた,他者から愛の告白を受けたなど,瞬間的に生じる自尊感情を「状態自尊感情」と呼びます。

よく,育児書などで言われる自尊感情を育てましょう,というときは「特性自尊感情」の事をさす場合が多いですね。

自尊感情は普段あまり意識されないものですが,その人の言動や意識,態度を方向づけるものとされています。

自尊感情が高いと,自分自身を基本的に価値のある存在と感じられるため,自己や他者に対して受容的になることができます。

自分や他人を大切にするためには,この自尊感情がとても重要な意味を持つのです。

自尊感情の芽生え

自尊感情は,1~2歳ぐらいの第一次反抗期から次第に発達していきます。

反抗期では,何でも「じぶんで,じぶんで」と色々な事をやりたがりますよね。 その過程で,自分の力を試していき徐々に自己を確立させていきます。

この時の,自分でできた体験,それを親や周囲の人に認めてもらえた体験が自尊感情の大元になるのです。

自尊感情の維持,向上

人には,基本的に自尊感情を維持したり,高めようとする傾向があります。

例えば,自分とよく似た他人と一緒にいたいと思うのは,自分の行動や考え方とその他者が近いため,自分の妥当性を確認しやすくなるためです。 自分の妥当性が確認できるという事は,自分は周囲や外界から受け入れられているという確認になるため,自尊感情を維持する働きがあるのです。

他にも,他者と自分を比較するとき,自分より低い人と比べてしまうことも多いと思いますが,それも自尊感情を維持向上させようとする自然な働きの一つなのです。

思春期から青年期の自尊感情の揺れ

健康な発達をしていても,思春期から青年期にかけては,自我同一性の確立時期と相まって,自尊感情は不安定になりがちです。
自尊感情は幸福感や適応と密接な関係があり,この時期に学校不適応の問題が多くなるのもそのためです。

自我同一性について詳しくは

【療育プチコラム】アイデンティティ~「自分」という存在~ 【アイデンティティ】 E.H.エリクソンの人格発達理論における青年期の心理社会的危機を示す用語。同一性,自我同一性と訳される。「自分...
【療育プチコラム】アイデンティティ拡散〜青春の悩みを科学する~ 【アイデンティティ拡散】 E.H.エリクソンの人格発達理論における青年期の心理社会的危機であるアイデンティティの対を成す概念。すなわ...

自尊感情を高めるには

人は自然と自尊感情を高めようしますが,自己に対する認識が客観的現実と主観的現実が一致している方がより健康度が高いと言われています。

近年,指摘されている若者の仮想的有能感の問題などは,この主観-客観のずれが大きく影響しています。

その上で,自分が成功を望んでいる分野で成功することが自尊感情を高めるとされています。 良い大学を出て良い仕事に就いたけど,自分のやりたいことではないと思っている人の自尊感情が低くなってしまうのは,成功体験をしているが自分の願望とことなる成功体験であるためなのです。

さらに,成功を自分の能力によって成し遂げたと認識できることも重要です。 これは原因帰属と呼ばれる心の働きです。

成功の原因を自分の内面的な力(偶然や外部の力ではなく,自分の能力や努力によるもの)としっかりととらえられることも自尊心を高めるためには必要なことなのです。

療育へのまなざし

自尊感情は,いわば他者や集団から受容されているか否かというバロメーターでもあります。 この点に関しては,愛着の発達からも考えられ密接に関係している部分です。

自尊感情を高めるためには,やはり成功体験が重要ですが,それ以前に自己が受け入れられている感覚を持っていることが重要になります。

成功体験を積むのが同時に,周囲から認められる体験であることが必要なのです。
自尊感情は自己への脅威から自分の心を守るプロテクターの役割をします。

思春期から青年期にかけては,上でも書いたように自尊感情が揺れやすい時期です。 この時期には周囲との人間関係も濃くなり,特に発達障害を持つ子の中では友人関係でのトラブルや壁を経験する子も多くいます。

その時に,自分の心を守るプロテクターが育っていると二次障害や情緒的不適応を防ぐ役割を果たします。

なので,自己効力感のところでも書きましたが,児童期に自尊感情などの自己への肯定的感情を育むことは何より重要なのです。

ここで,発達障害を持つ子への療育や支援を行う際に,一つ覚えておいて欲しい事があります。
A.ナドラーとJ.D.フィッシャーによる「自尊心脅威モデル」という考え方です。 これは,支援をする際に,受け手に課題解決能力の欠如を強く意識させてしまう援助は,支援の受け手の自尊心に脅威を与え,支援者に対して否定的な感情を抱いたり,支援に対して防衛的になってしまうというものです。

支援をする際に,課題解決能力の欠如を意識させてしまうと,自尊感情を傷つけることになるということです。

言葉としたら「なんだ当たり前じゃないか」というモデルです。

でも,学校現場などでもありがちですが「○○ができないから,じゃあ□□(という支援)をしよう」という提案の仕方だと,相手に課題解決能力の欠如を意識させてしまう危険性があります。
この点は,ついつい日常的に流してしまいがちな部分でもあるので,改めて注意してもらえたらと思います。

「○○できないから」ではなく,「もっと上手にやるためには」「△△とするともっとうまくできるよ」などと肯定的な言葉かけを意識してみてください。 そして,あくまで支援の”原因”をその子の能力不足(発達特性なども含めて)にあると思わず,支援に臨んで頂けたらと思います。

ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
コンサル・コーチングを受ける
発達支援の困った!仕事の悩みを相談する!