療育のキーワード

自己概念|自分のイメージが適応や他者理解に影響する過程

【自己概念】
自らが自己を対象(客体)として把握した概念。自分の性格や能力,身体的特徴などに関する,比較的永続した自分の考え。自己観や自己像,自己イメージも同義に扱われることがある。

心理学辞典,有斐閣

自己概念とは-イメージとしての自分 「私はどんな人」

初めての人と会う時,あなたは自分のことをどう説明しますか?

「僕は,年は23歳で身長は175cmで…」
「特技はダンスで,音楽が好きでよく聴きます!」
「私は,明るい性格で初対面の人ともすぐに打ち解けます」
「○○という会社で働いていて,事務の仕事をしています」

などなど,私たちは「自分」という存在に対して,身体・能力・性格・社会的役割などに基づいた一定の認識を持っています。

これが,「自己概念」です。

自己概念とは,自分についての知識やイメージのことです。

そのイメージは場面場面で変化しない比較的安定したものという特徴があります。

自己概念の定義

「自己概念」は発達心理学や社会心理学などで用いられることの多い用語です。
最近はキャリア開発やマネジメントの観点からも注目されている用語でもあります。

辞典や用語集に載っている定義についても少し整理してみましょう。

有斐閣,心理学辞典 自らが自己を対象(客体)として把握した概念
精選版日本語大辞典 〘名〙 心理学で、自分がどんな人間かについて抱いている考え
人材マネジメント用語集 自己概念とは、自分自身の今までの経験や認識してきた事柄によって形成される枠組みのことをして言う

少しニュアンスの違いはあるものの,共通するのは「自分が自分に対して持っている知識やイメージ」という点です。

自己概念は自己評価・自尊感情・自己効力感とどう違うの?

「自己概念」に似た言葉に「自己評価」「自尊感情」「自己効力感」などがあります。
これらはとても似た言葉ですが,微妙に指し示すものが異なります。

自己評価 ある特定の瞬間やイベントに対して自分自身への評価や判断
自尊感情 自己に対する評価感情,自分自身を基本的に価値あるものとする感情
自己効力感 ある行動を遂行する事ができるという自分の可能性の認識

「自己概念」は「自己効力感」や「自尊感情」などとは違って,シンプルな自分についての記述という特徴を持っています。

「自己概念」は,私たちが生活の中で積み重ねていった,自分という存在への知識や理解内容の集合体です。
この積み重ねに「自己評価」そして他者からの評価が影響しています。

「自己評価」はその瞬間瞬間で変化する特徴を持ちます。
自己概念は昨日と今日と明日で変わるという様な流動的なものではなく,比較的永続的な概念です。

自尊感情と自己効力感について詳しくは以下の記事も参考にしてください。

【療育プチコラム】自尊感情~自分も他人も大切!そのために一番大事なこと~ 【自尊感情】  自己に対する評価感情で,自分自身を基本的に価値あるものとする感覚。心理学辞典,有斐閣 自尊感情とは 自...
【療育プチコラム】自己効力感~挑戦力のある子に育つために必要な事とは?~ 【自己効力感】 自分が行為の主体であると確信していること,自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念,自分が外部からの要...

自己概念が与える影響|情報処理スキーマと心理的適応

自己概念は単なる自分自身の知識というだけではなく,私たちの世界の見方やその捉え方,また世界の中でどう適応していくかという側面にも影響をしていきます。

この記事では自己概念が与える影響として「情報処理スキーマ」と「心理的適応」の2つの面からその特徴を見ていきましょう。

情報処理スキーマ|ワークフレームとして働く自己概念

自己概念は私たちの行動や意識の在り方にも影響を及ぼしてきます。

人には”自己概念を維持しようとする傾向”があります。

そのため,周囲の社会的な環境を自分の自己概念に合わせて認知したり,自己概念に合わせて行動を選択しようとします。

例えばこういう人がいるかもしれません。
自分の事を「常に職場環境のことを考えている良い上司」だと思っている人が,社内アンケートで部下から良い評価と悪い評価を受け取りました。

悪い評価を参考にやり方の変更や業務改善をしてくれればよいのですが,悪い評価の事は忘れてしまい,良い評価だけを覚えている。せっかくのアンケートも結果,何も変わらない。

上司の「自分は良い上司だ」という自己概念に合わせて,周囲の環境を認知しました
その結果,自分にとって都合の悪い情報(=悪いアンケート評価)の価値は下がり,自己概念と合った情報だけを見てしまった。

自己概念にはワークフレームの様な働きがあります。

自己概念に合わないような情報はそぎ落としてしまうという影響もあるのです。

一方で,ワークフレームは自己概念に合った情報の処理を早めてくれます。

このワークフレームのことを心理学では「スキーマ」と呼びます。
特に自分自身に対して持っているスキーマのことを「自己スキーマ」と呼びます。

スキーマについて詳しくは下記の記事も参考にしてください。

【療育のキーワード】スキーマ-アイキャッチ
【療育のキーワード】スキーマ-情報の認識に影響を与える心の機能スキーマとは何か。物の見方に影響を及ぼす心の働き,スキーマについて詳しく解説。スキーマを療育に取り入れる際のポイントも。...

ワークフレーム=スキーマは私たちの情報処理に影響を与えるだけではなく,未来の行動や思考にも影響をします。

「自分は努力家だ」と思っている人には,困難を前にしても逃げ出さずに努力をし続けるという行動を起こさせもします。

また,自己概念は他者理解を促進します。

自分を振り返り,自分と他者を重ね合わせることで,他者の思考を推測することができるのです。

この様に,自己概念は私たちの将来の行動や意識に大きく影響し他者とのコミュニケーションにも作用していくのです。

心理的適応|自己概念のズレはメンタル不調の引き金に!?

自己概念は,周囲の認知や私たちの行動の根底に作用する理論として働きますが,他にもいくつかの影響を私たちに及ぼします。

自己概念と現実(=経験)があまりにもズレる場合には,私たちの心身へ負の影響も与えます。

来談者中心療法で有名なカール・ロジャーズのカウンセリングは不適応の原因は「自己概念と経験の不一致にある」と考えました。

上の例で見たように,自分の事を「常に職場環境のことを考えている良い上司」と思っていていも現実場面でさらに上の社長から「お前は職場環境のことを何も考えていない!もっと部下に対して優しくしなさい!」と怒られたとしたら,ここに自己概念と現実(経験)のズレが発生します。

皆さんも経験があるかもしれませんが,自分で思っていたほどできなかったことや理想と現実のギャップにぶち当たるとなかなかなストレスを感じます。

現実と自己概念のズレは不適応反応を生じさせる原因になるのです。

この現実とのズレを修正していく過程はしばしばカウンセリングで取り上げられる主題(自己受容)にもなります。

【療育プチコラム】自己受容~ありのままを受け入れるために必要な事とは?~ 【自己受容】  自己のありようをそのまま受け入れること。心理学辞典,有斐閣 自己受容とは,そのままの自分を受け入れる ...

自己概念がつくられていく過程

自己概念はどの様に形成されていくのでしょうか。

自己概念の形成には,主に以下の3つの影響がそれぞれ複合的に作用しています。

  1. 自己観察
  2. 社会的な比較
  3. 周囲からのフィードバック
自己観察 日頃の生活の中で,自分の行動や考え等を振り返り,自分とはどんな人間かというイメージをつくっていく
社会的な比較 他者と自分を比べることで相対的に自己への理解を深めていく
周囲からのフィードバック 「あなたって○○なひとだね」と言った様な,「私」という存在への周囲の評価や情報を自己概念に組み込んでいく

文化や社会が自己概念に影響を与えていく

自己概念の形成には,純粋な個人の理解だけではなく,文化や社会からも様々な影響を受けています。

例えば,日本には他者との協力や和を重んじる風土があるため,協調性を自己概念に取り入れる場合が多いです。

一方,アメリカなどでは,個人としての独立が社会的に望まれるため,他者とは切り離された個人として完結した思考様式などが自己概念に取り入れられます。

どういう仕事をしているか,職場の中での役職,父親や母親といった家庭の中の役割,社会的な権力など,社会的役割や地位なども自己概念へ影響を与えます。

この様な文化的・社会的な影響も受けながら自己概念は形成されていくのです。

自己概念を掘り下げていくための方法

近年では自己概念が社会適応だけではなく,仕事をする上でもリーダーシップの発揮やキャリア開発にも影響する事が知られてきました。

人材マネジメントの分野からも自己概念を知ることは重要視されています。

自己概念を深めたり変化させたりすることはできるのでしょうか?
それぞれ見ていきましょう。

自己概念を深く知るための方法|Who am Iテスト

自己概念を深く知るための方法は「Who am Iテスト(20答法)を活用する」ことです。

Who am IテストはWAIテストとも略されます。

WAIテストはクーン博士とマックパートランド博士(Kuhn,M.H.&McPartland,T.S.)が作成した自己分析と自己理解を行える簡単なテストです。
20問の「私は〜です。」という質問に答えていきます。

このテストは20問同じ質問があるというのがミソで,回答が進むに従ってよく知っている自己像から深層心理のセルフイメージ,無意識下の欲求などを知る事ができます。

自己概念を変えるためには?

自己概念を変えるためには,主に2つの方法が有効です。

  1.  他者からのフィードバックを受ける
  2. 自己洞察を深める

それぞれ詳しいやり方を見ていきましょう。

他者からのフィードバックを受ける

自己概念を変えていくためには他者からのフィードバックを受けることが有効です。

特に,自分にとって重要な他者からのフィードバックは自己概念に強い影響を与えます。

重要な他者とは,両親や恋人,尊敬する先生や上司など自分にとって信頼のできる相手のことです。

カウンセリングを受けながら自己概念の変化を進めていくことも,信頼できるカウンセラーからのフィードバックを受ける一つの過程でもあります。

積極的にフィードバックを受けることで自分自身への認識の変化が生じ,自己概念を変えていくことにつながっていきます。

自己洞察を深める

自己洞察を深めることも自己概念の変化には有効です。

自己洞察の時間を設けることは普段気づいていなかった自分自身に気づくきっかけにもなります。

自己洞察とは自己を客体として観察することです。
つまり,”自分自身で自分の事をよく見る”という事です。

心理学者のジェームス は,自己を「知る主体として の自己(I)」と「知られる客体の自己 (me)」の2つに分けました。

客体的自己は次の3つに分類されます。

物質的自己 身体,衣服,家族,財産など
社会的自己 周りの人たちが自分について抱くイメージに基づいて、自分の中で形成される自己イメージ
精神的自己 自分の性格、価値観など、生涯を通じてあまり大きくは変わらない気持ちのありようなど

自己洞察といっても坐禅を組んで瞑想する,みたいなことはしなくても大丈夫です。

普段の生活の中で,自分が好きなもの興味を持つものに対して「なぜ,自分はこれが好きなのだろう?」という疑問を投げかけるだけでも十分効果はあります。

自己洞察を進めることで,身体や社会的な肩書など見えやすいもの(物質的自己・社会的自己)だけではなくより深い精神的な自己を知る事ができます。

療育へのヒント

自己概念には,一種のワークフレームの様に行動や思考の型として働く機能があります。
それは他者の行動を推察するときにも「こう考えているんじゃないかな」と考えるための重要な参考になります。

これは,他者理解を促進する効果もあるのですが,発達障害を持つ子の療育上ではしばしばこの機能が反対に他者理解を邪魔している場面に遭遇します。

「自分はこう考えているから他の人もそうに違いない」という,極度の一般化が生じやすいのです。

これは,発達障害を持つ子が「例外を認めにくい」という特性を持っていることと「他の可能性を想像する」ことを苦手とするためです。

「自分はこうだから」という型にはめて他者を理解してしまいやすくなってしまうのです。

もともと自己概念には,ワークフレームや認知のフィルターの様な働きがあります。
発達障害を持つ子の場合は,その上に発達上の特性という要素が加わるのです。

ソーシャルスキルの学習や練習をする際は,その様な点にも留意して進められると良いかもしれません。

また,「乱暴な子だ!」と言われ続け,乱暴な自分という自己概念を形成している子は,「人も乱暴にふるまうかもしれない」という思考理解にとらわれてしまう危険性をもっています。

自己概念の形成には,周囲の他者からのフィードバックも大きな影響を及ぼします。

「あなたは○○なひとだね」の○○の部分に肯定的な言葉が入るのか,否定的な言葉が入るのかで,その子の将来の行動にも全く異なる影響を与えてしまうのです。

何気ない言葉かけも大きな影響を持つことがあります。

それはマイナスに作用するときもありますが,もちろんポジティブな時もしかりです。

その子の強み(ストレングス)を発見してフィードバックをしてあげることは療育においてもとても重要な事なのです。

ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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