【安全基地】

ボウルビィの愛着理論の中心的概念で,愛着の質を決定するキーとなる概念。いつも接触していなくても安全を感じることができることを発見し,母親を安全の基地として使用しながら探索活動に熱中するようになる。(心理学辞典,有斐閣より)

〇エネルギー補給基地―安全基地とは

人間は生まれたばかりの時は,自分では食事もとれず,非常に非力な存在として誕生してきます。

自分の生命の維持さえ,母親をはじめとする養育者まかせですね。

そんな子どもでも,成長するにしたがって徐々に自分でできることが増えていきます。

自分で食事をするようになり,トイレに行くようになり,着替えをし,そしておもちゃや周囲の様々なものを使って遊ぶようになります。

子どもが外の世界を認識して,自分の中に内在化していく最初の第一歩はこの「あそび」です。

まず,子どもは母親や養育者の下で,遊び始めます。次第に,周囲の世界に興味を向けるようになり,自分で外の世界を探索するようになるのです。

この,母親や養育者の下からはなれて,周囲の世界を探索する過程において大切な概念が,「安全基地」。

まだまだ力も弱く,外の世界を知らない子どもにとっては,周囲の世界はワクワクする未知の事が広がっているのと同時に,ドキドキする危険なこともいっぱいなのです。

そんな世界を探索するためには,非常に多くのエネルギーを使います。時には,びっくりしたり,淋しくなったり,悲しくなったりとより多くのエネルギーを消耗する事態もあるでしょう。

そんな時に,母親や養育者の下に戻って,抱きしめられたり,優しい言葉をかけてもらったりすることで,子どもは再び世界を探索するエネルギーを回復します。

この,周囲を探索する際,エネルギー補給の基地として母親や養育者を「使う」事を,ボウルビィは「安全基地」と呼びました。

仰々しく「安全基地」という用語がついていますね。

でも,この「安全基地」を子どもが使っている光景はみなさん結構イメージしやすいと思います。

公園などで母親や養育者はベンチに座って,子どもは近くの滑り台で遊んでいる。でも途中でつまづいて転んでしまった子どもは泣きながら母親や養育者の下にかけよって抱きしめてもらいにきます。そして。しばらくして落ち着くとふたたび滑り台に向かっていく。そんなよく目にする日常の風景です。

幼児期は,それまでの母親や養育者と一体化していた子どもが,次第に「自分」という個人を形成していく最初の時期です。

その際に,必要な時に援助をもらえるという安心できる存在こそが,この「安全基地」です。

自分が困ったとき,情緒的に混乱したとき・消耗したとき,生命の危機を感じたときに助けてもらえるという安心感を感じることが,母親や養育者だけでなく外の世界への基本的信頼感として子どもの中に形作られていきます。

その過程がいわゆる愛着形成の過程となるのです。

そして,この時期に形成された愛着の型は,その後の対人関係に大きな影響を及ぼすと言われています。

〇自閉症児と安全基地

自閉症児の愛着に関する研究はまだあまり多くありません。それでも,自閉症児も母親や養育者と安定した愛着を形成しているとする研究もあります。

ただし,自閉症児の愛着行動(情動を落ち着かせたり,情緒的エネルギーを補給するための抱き着きや接近といった行動)は,ちょっと特殊なパターンを示す場合もあります。

まず,第一に感覚の過敏がある場合などは抱き着きが安心を感じる要因になりにくい場合もあります。

さらに,自閉症の特徴として他者の行動を予測することが難しかったり,他者の発する情報(声などの聴覚情報や,視線など視覚情報をはじめとして人の動きなど全般)がさらなる混乱を招くきっかけになったりする場合もあります。

その様な要因から,自閉症児には「安全基地」として他者を利用する行動は,”見えにくい”こともあります。

ただ,これは自閉症児に「安全基地」として他者を利用する能力がないことを示すのではなく,その行動パターンが独特であるというだけの事です。

例えば,接近をあまりしない自閉症児でも,母親や養育者=愛着対象を視界の隅に入れておくだけ(むしろそれぐらいのコントロールされた情報量で捉える状態)で安心を感じている事もあります。

また,抱きしめられるまでの強い刺激ではなく,母親や養育者のそばまでやってきて,そっと背中や手に触れてまたどこかへ行ってしまう,このくらいの弱い刺激で「安全基地」を確認していく子もいます。

自閉症児の場合,その後の愛着発達もやや特殊なパターンをたどる事もありますが,それでも愛着関係は形成され,安心を感じ,外の世界を探索しようとしていくのです。

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