療育のキーワード

シェマとは|認識発達のメカニズム:同化と調節をわかりやすく解説

【シェマ】
シェーマ,シャム,スキーマとも。認識の枠組み。この言葉は最初,先行する反応が後続する反応の道筋をつける過程をさすものとして,神経心理学の分野で用いられた。

心理学辞典,有斐閣

世界を認識する枠―シェマとは

私達は,常に自分と自分の外の世界との相互作用を経験し,その中で生活しています。 道具を使ったり,言葉を話したり,本を読んだり,PCを使って調べものをしたり,スマホで友達とコミュニケーションを取ったり。

でも,生まれた時からすぐに今の様に世界を認識することができたのでしょうか。 また,生まれた時から身の回りで起こる様々な問題を解決することはできたでしょうか。

人間は他の動物の様に,生まれてすぐに自分で立ち上がったり,食事を取ることができません。 最初は,身動きもままならないとても力の弱い状態で生まれてきます。

では,人はどの様にして外界に働きかける力を成長させていくのでしょうか。

そのヒントをくれるのが,発達心理学界の大御所ピアジェによる「シェマ」という概念です。
シェマとは,行動や思考の様式,枠組みの事をさします。

シェマを身につける-赤ちゃんの「実験」

人は生まれてすぐは,反射による動きや目的をもたない動きがほとんどです。 いわば,外界に対しては受動的な存在とも言えます。

ピアジェは,反射の時期を超え,次第にシェマとしての行動様式を増やしていくことが人の発達の根幹を成すと主張しました。

赤ちゃんは,反射の時期から次第に,周りに手を伸ばしたり,足を伸ばしたりと,特に目的をもたない様な動きを繰り返して,自分の能力の「実験」をしていきます。

ふとあるとき,伸ばした手がそばにあるガラガラを揺らしました。すると,そこから音がなる!また,繰り返し手を伸ばすとガラガラに触れて音がなる。楽しくなってまた手を伸ばす…。

目的をもたなかった「手を伸ばす」という行為が,「ガラガラを揺らす」という目的をもった行為に変化していきました。 次第に,赤ちゃんは揺らすよりも握って振る方が音が良く出ることに気づくでしょう。すると,今度は「握る」「振る」という行動へと変化していきます。

この,「手を伸ばす」→「物に触れる」→「物を握る」→「物を振る」という行動様式の拡大と変化こそ,シェマの発達の過程の基本です。

赤ちゃんはこの「物を握る」という行動様式を応用することで,今度はボールを持てるようになりました。
そこでまた「実験」ボールを持ったまま手を動かすと,ボールが飛んでいきました。

こうして,次は「物を投げる」という行動様式=シェマを獲得した訳です。

シェマの発達の仕組み-「同化」と「調節」

シェマは,外界との相互作用を通して次第にそのレパートリーを増やしていきます。

上の例では,ガラガラを「握る」というシェマを広げて,ボールを「握る」事が出来ました。

ガラガラとボールは違うものですが,同じ「握る」というシェマで対応できることを赤ちゃんは気づいたわけです。

この,外界の情報や出来事をシェマに合わせて取り入れる働きを「同化」と呼びます。

でも,同化だけでは対応できない出来事も世の中には多くありますよね。

例えば,同じ「握る」というシェマを使っても,ガラガラを「握る」時と同じようにご飯を食べようとスプーンを「握って」も,うまく食べられません。

赤ちゃんはまたまた,「実験」をしました。
どうやらスプーンの持ち方を少し変えると食べやすいようです。

この様な,外界の情報や出来事に合わせてシェマを変化させる働きを「調節」と呼びます。

新しい経験に対して,人はシェマを「同化」したり「調節」したりと釣り合いを取ろうとしていきます。

ピアジェは,このシェマを「同化」したり「調節」したりと変化させていく過程を,人の認識の発達であるとしました。

認識の発達|同化と調節の仕組み

上の例では,行動のシェマを取り上げましたが,思考の場合も同様です。人は,それぞれ思考のパターンをもちながら,世界を認識したり働きかけたりしています。

思考のパターンのことを「スキーマ」と呼びます。

スキーマについて詳しくは「【療育のキーワード】スキーマ-情報の認識に影響を与える心の機能」もご参考に!世界の認識の仕方や私たちの”見方のクセ”について解説しています。

【療育のキーワード】スキーマ-アイキャッチ
【療育のキーワード】スキーマ-情報の認識に影響を与える心の機能スキーマとは何か。物の見方に影響を及ぼす心の働き,スキーマについて詳しく解説。スキーマを療育に取り入れる際のポイントも。...

この思考のパターン=スキーマを「同化」したり「調節」したりして,日常生活に適応していくのです。

療育へのまなざし

シェマとは人の行動や思考の様式のことです。
自閉症スペクトラムをはじめとした発達障害を持つ子では,この行動や思考の枠組みを変化させることが苦手な子が多くいます。

特に,外界の情報や事柄に応じて,自分の内面を変化させていく「調節」機能が上手く働かない場合があります。 また,反対に自分の中の枠組みに過度に外界の情報を「同化」させ過ぎてしまう場合もあります。

「調節」が上手くできていないとは,自分の認識やこだわりに縛られ臨機応変な行動をとることができない状態です。

「同化」が過ぎてしまうとは,近視眼的に物事を捉えてしまい客観的事実より自分の中のパターンに当てはめた解釈をしてしまう様な状態です。

どちらも自閉症スペクトラムの特性を持つ子には多く見られる特徴です。

療育の過程では,この「同化」と「調節」を促して,シェマと外界の釣り合いを取っていく事が基本となります。

つまり新しい行動を学習していくときには,その子がすでに持っているシェマ=行動様式を手掛かりとしてスタートしていく必要があるという事です。

これは,学習のスモールステップを設定していく上でも非常に役立つ考え方です。

シェマに合わせた課題設定

シェマという概念は,そのまま療育の方法を決めたりと具体的な考え方につながる概念ではありません。

でも,行動や思考に様式や枠組みがあるという知識は,子どもの行動や考え方を理解するうえで助けになるものです。

知識は,人の見かたの視点を増やし,広げてくれます。

特に,シェマはその人の行動思考の特徴を捉えるときに,非常に参考になる概念です。
ぜひシェマの概念を理解しながら支援に役立ててください。

 

ABOUT ME
まっつん|発達支援の心理屋
〈記事監修〉公認心理師/社会福祉士 大学・大学院で臨床心理学を専攻。主に愛着(アタッチメント)の発達とその認知過程について研究を行う。大学在学中より培ったグループワークを活かし放課後等デイサービスで発達障害を持つ子の支援にあたる。現在は発達支援の情報発信をしながら支援に携わる人に向けた「支援する人も楽になる働き方」コンサルやアドバイザーをつとめている。
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